第2章 29 宰相からの挑発 2

「クラウディア様……探すと言っても、何かあてはあるのですか?」


リーシャは余程不安なのか繋いだ手が小さく震えている。


「ええ、大丈夫よ。リーシャ、私を信じて?勝算が無ければ鍵束なんか受け取らないもの」


「そう……なのですか?」


「ええ。だから安心して」



この時ばかりは本当に処刑される寸前までの記憶を鮮明に持っていて良かったと感じたことは無かった。

私が兵士から預かった鍵束についている鍵にはヘッド部分に不気味なドクロの飾りがついている。


この鍵を使う牢屋は良く知っている。

何故ならそこに私は処刑場へ連れていかれる寸前まで閉じ込められていたのだから……。


けれど、その牢屋に向かうにはある問題があった。


「リーシャ」


足を止めると振り返った。


「はい、何でしょうか?」


「この牢屋に行く前に、やらなければならないことがあるの。だから私のお願いを聞いてくれるかしら?これはリーシャにしか出来ない事なのよ」


「え?私にしか出来ない事ですか?」


「ええ、そうよ。引き受けてくれるかしら?」


するとリーシャは大きく頷いた。


「ええ。勿論です。私のような者でもクラウディア様のお役に立てるなら、何なりとお申し付け下さい」


「本当?それでは香辛料の貯蔵されている倉庫から、カゴ一杯に唐辛子を貰ってきてくれる?」


「え?」


リーシャが驚いて目を見開いたのは、言うまでも無かった――。




****


 

 私はリーシャを連れて、城の敷地内に設けられた大きな倉庫……香辛料貯蔵庫へと足を運んでいた。


幸い倉庫付近に人の気配は無く、私を見て咎めるような人は誰もいない。



「本当に回帰前の記憶を鮮明に覚えていて良かったわ……」


青い空を見上げながら呟いた時……。



「クラウディア様」


倉庫の中から、布が掛けられたカゴを手にしたリーシャが現れた。


「どうだった?唐辛子は貰えたかしら?」


「はい、見て下さい。こんなに沢山頂きました」


リーシャは嬉しそうに手にしていたカゴの布を取り払うと、中にはぎっしりと唐辛子が入っていた。


「まぁ、これはすごいわ…」


「どうですか?これくらいで足りますか?」


「ええ、十分足りるわ。それでは行きましょうか?」


「はい」


私はリーシャを連れて、いよいよユダ達が囚われている監獄へと向かった――。




****


 


 広大な敷地に建てられた『エデル』の城は美しいだけでは無かった。


城の周囲は美しい森に囲まれており、森の奥には大罪を犯した罪人が収監される監獄があったのだ。


普通の罪人であれば、城の地下にある地下牢に閉じ込められるだけであるけれども、大罪を犯した犯人はこの監獄に送られる。

それが、私が兵士から預かった監獄の鍵なのだ。


それにしても‥‥。

私は悔しさのあまり、ギリギリと歯を食いしばった。


何故、何も罪を犯していないユダ達を監獄に閉じ込めたのだろう。

彼らはただ私を『エデル』に連れて来てくれただけなのに。


旅の道中、私の悪評を広められなかったことがそれほど重い罪になるのだろうか?

宰相は、どこまで私を憎んでいるのだろうか……?




監獄目指し、森の中を歩いているとリーシャが声を掛けて来た。


「何だか、うっそうとした森でちょっと怖いですね……」


その声は明らかに震えている。


「大丈夫よ、リーシャ」


リーシャを安心させる為に、その手を握りしめた。


「クラウディア様……」


余程リーシャは不安なのか、私の手を握り返すと尋ねて来た。


「何故、私達は唐辛子を身につけて監獄棟へ向かって歩いているのですか?」


「ええ……本当は貴女を怖がらせたくは無かったから黙っていようと思ったけど、実はこの森には囚人が逃げられないように何匹もの番犬がうろついているのよ」


「え?!ば、番犬ですかっ?!」


「ええ、そうよ。番犬の役割はそれだけじゃないわ。監獄に近付く人間も追い払う役割を果たしているの」


「そ、そんな……っ!」


リーシャの顔が青ざめて、今にも泣きだしそうになる。


「大丈夫よ!落ち着いて、リーシャ。その為に貴女に唐辛子を貰ってきてもらったのよ」


「え……?どういうことでしょうか……?」


リーシャが目を見開いて私を見た――。








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