第2章 27 不吉な予感
「あの、クラウディア様……」
リーシャの手を引いて歩いていると、不意に声を掛けられた。
「何?リーシャ」
足を止めて振り向くと、そこには申し訳無さそうな表情を浮かべたリーシャの姿があった。
「ど、どうしたの?リーシャ」
「申し訳ございません……私のせいで、陛下にお願い事をしなくてはならなくなって……」
今にもその声は泣きそうである。
「何を言ってるの?貴女は何もそんなことは気にしなくていいのよ?自分のメイドを守るのは主である私の務めなのだから」
「クラウディア様……」
「ほら、そんな顔しないの。可愛い顔が台無しになるわよ?」
まるで我が子をあやすかの如く、リーシャの頭を撫でた。
「そ、そんな……わ、私なんて…別に可愛くは……」
「いいえ、とっても可愛いわよ。もっと自信を持ちなさい?それじゃ行きましょう」
「はい!」
ようやくリーシャは笑顔を見せてくれた――。
****
兵士達の訓練場は城内に3箇所あった。
一番メインな訓練場は、回廊に囲まれた中央に位置する場所にあった。
恐らく、そこに行けば今の時間誰かしら人がいるはずだ。
「本当に、兵士の方たちはいるでしょうか……?」
リーシャが心配そうに尋ねてくる。
「ええ、大丈夫。きっといるはずよ」
たとえ、そこにユダや知っている兵士がいなくても尋ねてみれば誰かしら分かるはずだ。
やがて、回廊に響き渡るように掛け声と何かが激しく打ち合うような音が聞こえてきた。
「クラウディア様、あの音は…?」
「ええ。間違いないわ。兵士たちが訓練する音よ。行きましょう」
少し歩く速度を早めながら私達は訓練場へ向かった――。
まるで開けた広場のような場所にやってくると、隊長と思しき兵士が指示を出していた。
「よし!素振り後100回だ!」
『はいっ!!』
その言葉に合わせて、20名程の兵士たちが剣を持って素振りをしている。
「クラウディア様。あの人達が……?」
リーシャが小声で尋ねてくる。
「ええ、あの人達はこの城の兵士たちよ。貴女はここにいてくれる?私は彼に尋ねたいことがあるから」
指示を下している人物から目をそらせること無くリーシャに声を掛けた。
「は、はい……あの、クラウディア様。どうぞお気をつけ下さい」
「ええ。大丈夫よ」
心配そうに見つめるリーシャを安心させる為に笑みを浮かべると、私は目的の人物に近づいて行った。
「ん?誰だ?見掛けない顔だな?」
私の気配に気付いたのか、隊長と思しき男がこちらに顔を向けた。
「ええ、私は……」
言いかけると、男は何かに気付いたかの様子で声を上げた。
「あ、貴方はもしや……今回、陛下に嫁ぐためにやってきたクラウディア様ですか?!」
「え?ええ。そうです」
男の声色で私はピンときた。
きっと、ここにいる彼らは私を歓迎しない人々なのだろうと。
「そうですか…貴女がリシュリー宰相がお話して下さったクラウディア様ですか」
男は私を小馬鹿にしたような態度で腕組みをした。
「宰相が……?」
男の言葉に嫌な予感を覚える。
「ええ、そうです。ひょっとすると、ここに敗戦国の王女がやってくるかもしれないので、そのときは挨拶をするようにと言われていたのです。あ、そうそう。『聖なる巫女』であらせられるカチュア様も御一緒でした」
そしてニヤリと笑う。
その時、私は悟った。
どうやら、宰相に先手を打たれてしまったようだ……と。
この時の私はまだ何も知らなかったのだ。
旅のお供をしてくれたユダ達がどうなったのか――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます