第2章 24 私の評判

「け、結婚式ですか?その件で私を呼んだのですか?」


思いがけない話で、思わずうろたえてしまった。


「ああ、そうだ。結婚するのだから式くらい挙げるのは当然だろう?」


「で、ですが……」



 回帰前は私とアルベルトは結婚式など挙げなかった。

理由は簡単。

それは私が『レノスト』国の王女だったからだ。


私は『エデル』に嫁ぐまで知らなかったのだ。

自分が人質妻であるということが。

『エデル』の属国となった『レノスト』国が二度と自分たちに楯突かない為に……私が人質となって嫁がされてきたということに。


挙げ句に私は道中、自分たちの国の領地である『アムル』『クリーク』『シセル』に住む人々を見捨ててきてしまった。

その話がどういう経緯を辿ったかは知らないが、『エデル』に到着する頃にはすっかり悪女のレッテルを張られていたのだ。


そんな悪女とアルベルトの婚姻を望む人々は誰1人としていなかった。

当然、結婚式を挙げるなど……あり得ない話だった。



それが、結婚式を挙げるだなんて……。



「どうした?クラウディア。先程から浮かない顔で黙っているが…気分でも悪いのか?」


アルベルトに声を掛けられ、私は現実に引き戻された。


「いえ、気分は大丈夫ですが……でも結婚式の話でしたら遠慮させて頂きます。婚姻届にサインをするだけで構いませんから」


私はアルベルトの目を真っ直ぐ見つめた。


「何だって?本気で言ってるのか?普通…結婚式を挙げるのは女性の夢ではないのか?」


アルベルトが驚きの表情を顔に浮かべて私に尋ねてきた。

だけど、私は……。


「いえ……。私は敗戦国から人質として嫁いできた人間です。父が勝手に起こした戦争で、多くの人々を犠牲にしてしまいました。そのような敵国の姫と陛下が結婚することを喜ぶような者は誰もいないでしょう?かえって私と結婚式を挙げれば陛下のことを悪く思う人々が出てくるかもしれませんし……私自身の評判も更に悪くなるかもしれません。敗戦国の姫は自分の立場もわきまえず、強引に結婚式を挙げさせたと皆から言われてしまうでしょう」


「クラウディア……」


私の話を聞くアルベルトは、まるで苦虫を噛み潰し多様な表情を浮かべている。


「誰が、お前のことを悪く言っていると言うのだ?」


「そ、それは……」


思わず言葉に詰まると、アルベルトは身を乗り出してきた。


「お前は何も知らないかもしれないが、旅の途中で領地に立ち寄っただろう?そこで領民たちを…領地を救ってきたではないか?」


「陛下……」


確かに私は旅を続けながら3つの領地と領民たちを自分の出来る限りの方法で助けてて来た…つもりだ。

けれど、何故アルベルトがその話を知っているのだろう?


「ひょっとして……私を連れてきてくれた兵士達から話を聞いたのですか?」


脳裏に仲間たちの顔が浮かぶ。


「スヴェン……ユダ……トマス」


思わず、3人の名前を呟いてしまった。

まだ彼らと離れてから1日しか経過していないのに、随分長いこと会っていないような気がしてならない。


けれど、私はもう彼らと気軽に会える関係立場では無くなってしまった。

それが妙に寂しさを感じる。

この国で数少ない私の味方と思える存在だっただけに……彼らと容易に会えなくなるのは心にぽっかり穴が開いたような気持ちになってしまう。


「クラウディア、今何か言ったか?」


「い、いえ。何でもありません」


「そうか……?俺の気のせいでなければ…心、ここにあらずと言った様子だが?」


アルベルトが心配そうな表情で私を見つめてくる。

そんな瞳で見られるのは初めてだった。


「大丈夫です、ご心配には及びません」


「分かった。とにかく自分を過小評価することは無い。この話はまた後ほどしよう。そうだな……今日はマヌエラに城の案内をさせよう。お前の連れてきたメイドも一緒にな」


城の案内?

だったら……。


「陛下、折り入ってお願いがございます」


私はアルベルトに頭を下げた――。

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