第2章 23 アルベルトの話

「陛下は只今、執務室でお仕事をされております。本日はクラウディア様に大切なお話があるので、朝食後すぐにお連れするように陛下から申し使っております」


青いカーペットが敷き詰められた長い廊下を歩きながらマヌエラが説明する。


「そう……」


一体私に何の用があるのだろう。


アルベルトからの呼び出しは私に取って良い記憶は何一つ無い。

私が呼び出される理由はいつも決まっていた。

彼による激しい叱責だった。

そして、その殆どはカチュアや宰相による言いがかりのような物だった。


彼は私の話には一切耳を傾けることは無かった。

そして私は全てを諦め…寂しさを紛らわす為、アルベルトから愛されたい為にドレスや宝石を買い集めた。


その結果、私は国費を食いつぶした悪女として裁かれることになった――。



「クラウディア様?どうされましたか?」


不意に前を歩くマヌエラに声を掛けられ、私は現実に引き戻された。


「いいえ、何でも無いわ。私を呼び出すということは、さぞかし重大な要件なのでしょうね」


「……どうでしょうか?私は何も聞かされてはおりませんので……。あ、到着致しました。こちらのお部屋が陛下の執務室になります」


足を止めた扉は白いドアに、金色に輝くドアノブが取り付けられている。


「それでは私はお話が終わるまで、扉の前でお待ち致しております」


マヌエラがドレスの裾をつまんで、会釈した。


「いいえ、大丈夫よ。待っていなくても」


「え…?ですが、それではお部屋の場所が……」


怪訝そうな表情を浮かべるマヌエラ。


「大丈夫よ、もう自分の部屋なら覚えているから」


回帰前も今も同じ部屋なのだ。

間違えるはずもない。


「そうですか?では……私は一度下がらせて頂きます」


「ええ」


頷くと、マヌエラは去っていった。


回帰前の記憶が鮮明過ぎて、アルベルトと顔を合わせるのは憂鬱でしか無い。


「ふぅ〜……」


深呼吸すると、扉をノックした。


コンコン


するとすぐに扉は開かれた。


カチャ…


扉を開けたのはグレーのスーツを着用した見知らぬ人物だった。

メガネを掛け、前髪を全て上げて整えている男性は30代前半に見える。


「クラウディア様ですね?陛下がお待ちです。どうぞお入り下さい」


男性は丁寧に挨拶してくる。


「はい、ありがとうございます」


ひょっとすると、アルベルトの執事だろうか?


促されて室内に入ったると大きな窓を背にしたアルベルトがこちらを向くような姿で机に向かって仕事をしている姿があった。


そしてアルベルはすぐに私の気配に気付き、顔を上げると笑みを浮かべてきた。


「おはよう、クラウディア。よく眠れたか?」


「おはようございます、陛下。はい、お陰様でよく眠ることが出来ました」


ドレスの裾をつまみ、挨拶するとアルベルトは手招きした。


「そこの椅子に掛けろ。話がある」

「はい……」


執務室にはソファセットが置かれている。

私はそのソファに座ることを一度も許されたことは無かった。


何とも奇妙な気持ちになりながらソファに座ると、アルベルトが立ち上がり向かい側に腰を降ろすと口を開いた。


「クラウディア、実は今日呼んだのは2人の結婚式についての話なのだ」


「え?」


私はその言葉に耳を疑った――。

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