第2章 8 アルベルトの変化
「あ、あの‥‥行く?とは一体どちらへですか?」
回帰前とは違うアルベルトの態度に戸惑いながら尋ねた。
「決まっているだろう?クラウディアの為に用意した部屋だ。案内しよう」
「え?!まさか…陛下ご自身がですか?!」
「ああ、そうだ。今この場に案内できる者は俺しかいないからな」
当然だと言わんばかりに頷くアルベルト。
「ですが……」
「何だ?まだ何かあるのか?」
「いえ、何もありません」
眉間にしわを寄せるアルベルトを見て口を閉ざした。
「そんな身なりでは誰もお前が『レノスト』国から俺の妻になる為に嫁いできた王女だと思わないぞ?何しろ使用人たちは何と言って俺に報告してきたと思う?物乞い女が城に上がり込んできたと言ってきたんだぞ?」
「物乞い女……」
私は自分の身なりを改めて見た。
確かに今の私の身なりでは物乞いに見られても仕方がないかもしれない。
何故ならメイドたちの方が遥かに良い格好をしているのだから。
「どうした?気に障ったのか?」
何故かアルベルトが私を気遣うような素振りを見せる。
「え…?い、いえ。その様なことは思っておりません」
「そうか。なら行くぞ」
そしてアルベルトは先に立つと歩き出した。
「……」
私はおとなしくアルベルトの後をついて歩くことにした。
私の前を歩くアルベルトの後姿は未だに信じられない事だった。
回帰前は一切私を顧みることは無かったのに、何故か今の彼には私に対する気遣いを感じられる。
けれど、その理由が何故なのか私にはさっぱり分からなかった。
廊下を歩くアルベルトと私を目にした使用人たちは全員ギョッとした顔つきで慌てて頭を下げて来る。
その様子が少しだけ、おかしかった。
恐らく彼らの中では何故国王が物乞い女と歩いているのだろうとさぞかし、謎に思っているに違いない。
「着いたぞ、ここだ」
案内された場所は回帰前と同じ部屋だった。
「どうも有難うございます。陛下自らが案内して下さるとは光栄至極でございます」
「別にそれほどのことではない。…今日は疲れただろう。部屋に食事を運ぶように
命じて置く。夜は一緒に食事を取ろう」
「え…?」
その言葉にまた驚いてしまった。
まさか、アルベルト自らが私を食事に誘うとは思いもしていなかった。
回帰前……私はアルベルトと共に食事すらしたことは無かったからだ。
「どうした?何をそんなに驚いている?」
「い、いえ。驚いてはおりません。お気遣いありがとうございます」
丁寧に頭を下げた。
「それでは俺はもう行く。ゆっくり休むといい」
「はい、ありがとうございます」
「ああ」
アルベルトは踵を返すと、元来た廊下を戻りかけた時……突然足を止めると振り返った。
「そうだ。伝え忘れていたことがある。先頬お前が連れて来た専属メイドが目を覚ましたぞ。既にこの部屋でお前のことを待っている」
「えっ?!」
リーシャが?!
「それではな」
アルベルトは今度こそ、足早に去って行った。
彼が見えなくなるのを見届けると、私は部屋の扉を開けた。
「リーシャッ!!」
大切な彼女の名を叫びながら――。
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