第2章 7 国王アルベルト

「遅いわね……」


あれからどれ位時が流れただろう。気づけば太陽は随分高い位置に登っていた。


「もう正午を過ぎた辺りかしら……」


まさかここにずっと放置されたままなのだろうか?

これは…明らかな嫌がらせなのかもしれない。


出来れば旅の疲れを取りたいのに、これでは休むことも出来ない。


「疲れたわ……」


ホウとため息をついた時……。



バタバタと足音がコチラに向かって掛けてくる音が耳に入ってきた。


「何かあったのかしら…?何だか廊下が騒がしいようだけど……」


廊下の方を振り向いた時……。


バンッ!


突然謁見の間の扉が開かれた。


「クラウディア……」


「え……?」


私は思わず立ち上がった。


何故なら……慌てた様子で扉を開けたのは他でもない。


アルベルトだったからだ。




「クラウディア……まさかここでずっと待っていたのか?」


アルベルトは私に声を掛けながら謁見の間に入ってきた。


私は頭を下げると、挨拶をした。


「はい、陛下。大変お久しゅうございます」


アルベルトとは幼少期の頃、少しの間一緒に過ごしたことがあった。


「あ、ああ……。そうだな……久しぶりだなクラウディア。顔を上げろ」


「はい」


顔を上げると、そこには玉座に座ったアルベルトがいた。


アルベルト……。


彼は全く変わらぬ姿でそこにいた。

金の髪に青い瞳。


まるで彫像のように整った顔……。


回帰前、私は彼の美しい容姿を…そしてその権力を愛していた。

けれど敗戦国の姫として嫁いできた私を彼は全く省みること無く、冷たい言葉を……視線をぶつけてくるだけだった。


そして、それは当然の如く『白い結婚』へと繋がっていた。


私は一度もアルベルトと夫婦の関係になったことは無かったし、彼と同じ寝室で眠ったことすら無かった。


あの頃はそれが寂しくて辛くてならなかったが……今の私は彼を見ても何も心が動くことはなかった。


愛されなかったことも、また策略にはまって処刑されたことすらも……。



「どうした?クラウディア。私の顔をじっと見て……」


気づけば私はアルベルトの顔を見つめていたようだった。


「あ、大変申し訳ございません」


すぐに頭を下げ、視線をそらせると声を掛けられた。


「まぁ別に良い。それよりも何故この謁見の間にいたのだ?」


アルベルトは何処までも分かっていない。私が勝手にここで待っていたと思っているのだろうか?


「はい、私は騎士の方にこの謁見の間に通されました。陛下が留守の間は宰相が代わりを務めておられると聞きました。宰相がこの謁見の間で待つようにと私に言ったそうです」


「何?リシュリーがそう言ったのか?あいつめ……」


アルベルトが最後にポツリと呟いた言葉を私は聞き逃さなかった。


何やらアルベルトはリシュリー宰相に苛立ちを感じているようだった。



一体何故……?


どうやら、回帰前と今では状況が少し異なっているようだ。


「とにかく……長旅で疲れただろう?一度部屋に戻って休んだほうがいいだろう。行くぞ」


そしてアルベルトは立ち上がった――。



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