第2章 6 国王の不在

「国王陛下は……その、半月程前から領地を巡ると言い残して…出ていかれてしまったのです。そのうち戻ってくると言い残して。そこで宰相が今陛下の代理を務めております。本来ならお二方のどちらかがクラウディア様をお出迎えすることになっていたのですが…宰相も先程慌ただしく何処かへ出掛けられてしまって…クラウディア様がいらしたことは既に報告が入っておりますので、こちらでお待ち頂くよう命じられました」


騎士が申し訳なさげに説明した。


「そんな……」


まさか、アルベルトが不在だとは思わなかった。

回帰前は確かに彼はこの国にいて…ここで冷たい言葉を投げつけられたのに?


しかもアルベルトの代理をしているのが、よりにもよってあの宰相だなんて…!


「長旅でお疲れのところ申し訳ございません。ただいま椅子を御用意致しますので掛けてお待ち下さい」


「はい、お願いします」



騎士は椅子を取りに謁見の間を出ていき…程なくして背もたれ付きの椅子を持って戻ってきた。


「どうぞこちらの椅子に掛けてお待ち下さい」


「ありがとうございます……」


椅子に掛けると礼を述べた。


「いえ。それでは私は他に任務があるので、これで失礼致します」


騎士は頭を下げると、謁見の間を出て行き…私は1人残されることになった。


「ふぅ…まさかこんなことになるとは思わなかったわ」


ため息をつくと背もたれに寄りかかった。


それにしても出迎えの相手がまさかあの宰相だったとは……。




トリスタン・リシュリー宰相。


前国王時代から宰相として、『エデル』国の影の支配者とも呼ばれる人物。

そして、彼が連れて来た人物が『聖なる巫女』と呼ばれたカチュアだった。


「きっと、虹色の雲が現れたから慌てて神殿に向かったのかもしれないわね……」


彼は元々敗戦国の王女である私をこの国に嫁がせて来るのを反対していた。

そして彼は私を徹底的に排除し……代わりにカチュアをアルベルトの傍に置かせたのだ。


元より私には微塵の興味も無かったアルベルトは愛らしく、天真爛漫なカチュアにすっかり魅了されてしまった。そして私と言う妻がありながら、2人は堂々とまるで恋人同士のように仲睦まじい様子を城中の皆に見せつけた。


それだけではない。

カチュアには専属侍女やメイドを沢山つけたにも関わらず、私の専属メイドはたった1人…リーシャだけだったのだ。


そこで私はアルベルトの愛情を得られれば今の待遇も変わるだろうと考え、カチュアに脅しの手紙を出したこともある。お茶会で恥をかかす等の子供じみた嫌がらせをしたり…少しだけ国の予算に手を出してドレスや宝石を購入したこともあった。


それが仇となり、最終的に私の処刑を後押ししたのがリシュリー宰相だったのだ。


「今回はもう同じ目に遭うものですか…‥‥」


いつ現われるとも分からない宰相を待ちながら私は心に誓った――。


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