第2章 5 謁見の間
「それにしてもクラウディア様は随分と……その、地味なお召し物を着ていらっしゃいますね」
謁見の間に案内している騎士が声を掛けて来た。
今私が着ている服は地味と言うよりは、あまりにもお粗末なものだった。
麻布のロングワンピースにエプロンドレス姿。
髪も後ろに1つにまとめただけの…まるで平民以下、それも物乞いに間違えられてもおかしくないような姿だった。
「そうですね。確かにその通りだと思っています。陛下に謁見するには失礼な格好かもしれませんね。でも馬車での旅は動きやすい方が良いですし、それに必要最低限な服しか持ってきていませんから」
「え……?そうなのですか……?」
そんな私を騎士は怪訝そうな眼差しで一瞬こちらを見たが、後は私に声を掛けることなく前を向いて歩き続けた。
**
謁見の間に向かっている時に、廊下で多くのメイドやフットマンにすれ違った。
彼らは不躾な視線で私の方を見て何やらヒソヒソ話している。
そんな彼らの目は明らかに蔑みを含んでいた。
彼らがあのような目で見るのは、私をただの貧しい女に見ているからなのか。
それとも私が人質姫として嫁いできた王女だと知ってのうえでの態度なのかは定かではない。
けれどいずれにしても私に好意的ではないことはすぐに分かった。
大体侍女どころかメイドすら連れていないとなれば、蔑まれても当然なのかもしれない。
何しろ唯一城から連れて来ていたリーシャもシーラに何カ月も身体を乗っ取られていた影響で、深い眠りについている為ここにはいないのだから。
そして私を連れて歩く騎士も、そのような態度の彼らを注意すらしない。
それだけ私は軽んじて見られているのだろう。
回帰前と同樣、この城での私の生活は窮屈なものになるに違いない…。
けれど、今回は予想以上に早く『聖なる巫女』が現れた。
きっと城の人々と同樣、国民も『聖なる巫女』の存在に夢中になるだろう。
そうなれば元・敵国から嫁いできた私の存在はきっと邪魔な存在に感じることになり、いずれ私を追い出そうとする流れになるかもしれない。
それまでの間は静かに、慎ましく暮らして敵を作らないようにしよう。
今度は…絶対処刑されない為に。
私は両手を強く握りしめた――。
**
「到着いたしました。こちらが謁見の間です」
案内されたのはひときわ大きな両開きの扉の前だった。
回帰前も初めて案内された場所はここだった。
ここで私はアルベルトと再会し…自分が少しも望まれていない花嫁であることを知ったのだった。
「それでは扉を開けさせて頂きます」
「ええ、お願いします」
そして騎士はドアを開けた。
ギィイイイイイイ……
大きな音を立てて扉は開かれ、巨大なシャンデリアが吊り下げられた謁見の間が視界に広がった。
しかし肝心の謁見の間にやってきたものの、本来ここにいるべきはずだったアルベルトも、私の最大な敵だったあの人物の姿も無い。
それどころか、護衛の騎士すら待機していないのだ。
「あの…これは一体どういうことでしょうか?何故謁見の間に誰もいないのですか?」
「はい。実は……」
そして、騎士は驚きの言葉を口にした――。
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