第2章 9 私とリーシャ
「クラウディア様っ!」
開け放たれた扉の奥の部屋では驚いた顔でこちらを見ているリーシャの姿があった。
「あ……クラウディア様……」
途端に見る見るうちにリーシャの目に涙が浮かぶ。
「リーシャッ!」
私は彼女に駆け寄ると、思い切り強くその身体を抱きしめた。
そう、まるで我が子を抱きしめるかのように……。
「クラウディア様…わ、私…。申し訳ございません…な、何も分からなくて…」
私に抱きしめられたまま、リーシャは涙を流している。
彼女の熱い涙が私の服を濡らしていく。
「いいのよ、リーシャ……何も分からないのは当然よ……」
何故なら貴女は何ヶ月もの間、シーラに身体を乗っ取られていたのだから……。
意識が戻った時、見知らぬ場所で…しかも何ヶ月も経過していたことを知った時、どんなにか怖かったことだろう。
彼女はまだ……たったの19歳なのだから。
私の娘…葵と同じ年齢の――。
****
「申し訳ございませんでした。クラウディア様……沢山泣いてしまって…お恥ずかしい限りです」
ソファに座り、涙ですっかり目を腫らしたリーシャが申し訳無さそうに謝ってきた。
「いいのよ、リーシャ。そんな事気にしないで」
そしてそっと頭を撫でた。
「……」
そんな私を驚いた表情で見つめるリーシャ。
「何?どうかした?」
「い、いえ…何だかクラウディア様……私が身体を乗っ取られている間に随分大人っぽくなられたと思って……あ、申し訳ございません。失礼なことを申してしまいました」
慌てたように謝ってくるリーシャ笑みを浮かべながら声を掛けた。
「いいのよ?そんな事気にしなくて」
リーシャが私を大人っぽくなったと言うのは当然だろう。
何しろ彼女が意識の無かった時に、突然私はこの世界に回帰してきたのだから
しかも外見は20歳ではあるものの、回帰前と前世の自分の年齢を合わせれば66歳ということになる。
おまけに私は子育て経験者なのだから、大人びているのも当然だ。
それどころか、今の私には年相応の振る舞いをするのはもう不可能だ。
「ところでクラウディア様……」
リーシャは私をじっと見つめた。
「な、何?」
「一体、そのお召し物はどうされたのですか?王女様ともあろうお方が…その、あまりにも粗末な身なりをされるなんて……」
かくいうリーシャも私と引けを取らないくらいの貧しい身なりをしている。
「いいのよ、私の身なりなんて。この姿が楽だし、第一馬車の長旅にドレスは不向きだもの」
「ですが、お着替えのドレスもお持ちでは無いようですが?お部屋に届けられたクラウディア様のお荷物はあの衣装ケース1つだけでしたが?しかも拝見させていただきましたが、どれも質素な麻やコットン素材の衣服ばかりでした」
リーシャは部屋の隅に置かれた衣装ケースをチラリと見る。
「ええ、そうよ。それしか持ってきていないもの、私には豪華なドレスはもう不用だったからよ」
かつてクラウディアが好んで着ていたドレスは全て城に置いてきた。
もう私には不用なドレスだったし、あのドレスを売って少しでも城に残された人々の役に立てて欲しかったからだ。
「そうなのですか…ですが、今夜陛下に晩餐に呼ばれているのですよね?そのような貧しい身なりでは……」
「…」
確かに今の私は薄汚れたみすぼらしい姿をしている。
回帰前…私はアルベルトと一緒に食事を取ることすら無かったし、パーティーがあっても全てパートナーとして彼と一緒に参加していたのは『聖なる巫女』のカチュアだった。
今回も同じ展開になるだろうと思い、不用なドレスは全て置いてきたのだ。
「…仕方ないわ。一番まともそうな服を着て食事に参加するわ」
これでアルベルトがマナーを無視した私の姿に幻滅すれば、二度と食事に誘われることも無いだろう。
私は出来れば彼とは一切の関わりを持たないまま離婚を望んでいるからだ。
「ですが……」
リーシャが言いかけた時……。
コンコン
部屋の扉がノックされた――。
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