第1章 123 魔法陣

 2人の言葉に驚いた様子で、トマスが声を掛けた。


「ど、どうしたのですか?2人とも。クラウディア様のおっしゃる通り、早く到着する方が良いじゃないですか?」


するとトマスの言葉にスヴェンとユダが一喝した。


「「黙れっトマスッ!!」」


「ひぇっ!!」


たまらず、トマスは悲鳴を上げる。


「いいか?トマス!そんなことをすれば、あっという間に『エデル』に到着してしまうんだぞっ?!」


「そうだっ!お前はそれでもいいのかっ?!」


ユダに続き、スヴェンが叫ぶ。

あまりの発言に私は2人に尋ねた。


「い、一体どうしてしまったの?2人とも。一刻も早く『エデル』に到着したほうがいいに決まっているじゃない?全員疲れも溜まっているだろうし、何より陛下をお待たせしては悪いわ」


何しろ回帰前のアルベルトは私が『エデル』に到着した時こう言ったのだ。


『随分遅い到着だな。そんなにこの国へ嫁ぐのが嫌だったのか』と――。


今回は『レノスト』国の領地に立ち寄り、それぞれの問題解決に時間を費やしてしまった。これ以上長く時間を掛けて旅を続けるわけにはいかない。


すると私の言葉に素早く反応する2人。


「何言ってるんだ?姫さん!ほんの少しでも『エデル』に到着するのは遅れたほうがいいに決まっているじゃないか!」


「そうですよクラウディア様っ!『エデル』に行けば、きっと窮屈な生活が待っているに違いないのですよっ!それでもいいのですかっ?!」


「それでもいいのよ。陛下をお待たせするほうが余程私にとってはまずいことなのだから」


「う…」

「そ、それは…」


流石の2人もこの言葉で黙ってしまった。私は再びヨミに向き合うと声を掛けた。


「ヨミ」


「はい、クラウディア様」


「それではこれから私達全員を移動魔法を使って『エデル』まで連れて行って頂戴」


「分かりました」


ヨミは返事をした――。





****


 

 これから『エデル』へ向う為、メンバー全員が集められた。その中には新しく仲間になったザカリーも一緒だった。


「一体何が始まるんだ?」


あまり状況を理解していないヤコブがユダに尋ねて来た。


「俺は知らんっ!」


するとすっかり気分を害してしまったのかユダはそっぽを向いてしまった。


「は?何だって?」


ヤコブはユダの態度に驚いている様子だった。そんなユダの様子に他の仲間達も首を傾げている。


「あいつ、一体どうしてしまったんだ?」

「さぁな…第一あんな性格だったか?」

「随分変わってしまったな…」


仲間たちの囁き声も耳に入らないのか、ユダは何故かスヴェンと一緒になって私を恨めしそうな目で見ている。


「本当にどうしてしまったのでしょうね?あの2人は」


トマスが不思議そうに尋ねてきた。


「ええ、そうね。まだ旅を続けていたいのじゃないかしら?」


2人は私が『エデル』に行けばアルベルトと結婚することになる。恐らくそのことが気に入らないのだろう。

けれど、このことは既に旅が始まる前から決められていたこと。今更覆すことなど出来ない。

だったら尚の事早くこの旅を終わらせて、スヴェンとユダには私のことは諦めて貰うしか無いだろう。


地平線からは徐々に太陽が見え始めていた。

もうすぐ…長かった夜が明ける。



私は傍らに立つ、長い杖を手にしたヨミに声を掛けた。


「ヨミ、それでは私達を『エデル』に連れて行って」


「はい、分かりました」


ヨミは頷くと、手にしていた杖で地面に巨大な魔法陣を描き始めた――。



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