第1章 122 移動魔法【ポータル】

「…どうだ?姫さん?」

「クラウディア様。いかがです?」


スヴェンとユダが尋ねてきた。


「……そうね。そろそろ手を離しても大丈夫かもしれないわ」


私はカイロの鼻に押し当てていた【服従薬】の染み込んだハンカチを外すと頷いた。


「分かった」

「それじゃ離しますよ」


2人はカイロを押さえつけていた手を離した。


「……」


カイロは何処か虚ろな表情でこちらを見つめている。


「私の話が分かる?カイロ」

「…はい、クラウディア様」


コクリと頷くカイロ。


「貴方の本当の名前は?」

「俺の名はヨミです」


「ヨミ……」


何故だろう。ヨミと言う名前は黄泉を連想させて、あまりいい気がしない。それは私が過去において2度の【死】を経験しているからだろうか?


「貴方の仲間は誰?」

「はい、ここにいるシーラです」


指差されたシーラは無言でその様子を見つめている。


「貴方は魔術を使えるのでしょう?どんな魔術を使えるのか教えてちょうだい」


「はい、俺の魔術は魔法陣を描いて【ポータル】を作り出すことです」


「ポータル…?」

「一体、何のことだ?」


スヴェンとユダが首を傾げる。

そして私とヨミのやり取りを聞いている他の人々も皆、首をひねっている。


「ポータルとは何?」


「はい。ポータルとは、いわゆる入り口の出入り口のことです。同じ形の魔法陣を違う場所で描いて、一瞬で違う場所に移動することが出来る魔術です」


「え…?」


知らなかった。そんなに凄い魔術がこの世界にあったなんて…!

スヴェンにユダも相当驚いたのか目を見開いているし、周囲にいた人々もざわめいている。


でも…これで分かった。

シーラが何故私を連れて逃げようとしたのか。『エデル』の使者達の目を盗んで私を連れ去ることなど、ヨミのポータル魔法があればいとも簡単に別の場所へ瞬時に移動することが可能だったからだ。


すると、その話を聞いユダが突然私たちの会話に入って来た。


「おい!今の話が事実なら、本当に一瞬で海を越えた他の国へ行くことも出来るのかっ?!」


「……」


しかし、ヨミはユダの問いに返事をしない。


「おい!貴様っ!答えろっ!」


痺れを切らしたユダがヨミの襟首を掴んだ時‥‥スヴェンがユダを止めた。


「待てよ、落ち着けって。恐らくこいつは姫さんの言うことしか聞かないんじゃないのか?何しろシーラの時もそうだったからな」


「ええ。その通りよ」


私は頷いた。

でも、それほどまでに便利な魔術なら‥‥‥。


「ヨミ、聞きたいことがあるのだけど…ポータルで通り抜けられる人数は決まっているの?」


「いえ、魔法陣が開いている限りは何人でも通れます」


「そうなのね?では『エデル』へ行くことは出来るのかしら?」


「はい、勿論です。あの国には俺が描いたポータルがありますから」


すると私の言葉にユダが何故か青ざめた。


「クラウディア様……まさか‥‥?ヨミのポータルを使って『エデル』へ向かうつもりですか?」


「ええ、そうよ。思っていた以上に大分長旅になってしまったから、みんなも疲れがたまっているでしょう?ポータルを使えば一瞬で『エデル』へ着くことが出来る。この旅を終わらせることが出来るわ」


「それは良い考えですね」

「ええ、俺もそう思います」


私の言葉にトマスとザカリーが同意したその時……。


「「どこが良い考えだっ!!」」


スヴェンとユダが同時に声を上げた――。






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