第1章 117 私の策

 スヴェン達の案内で訪れた家は、私が檻に閉じ込められた後に目覚めた家だった。


ユダが扉を開けると、家の中には村人たちと『エデル』の人々の姿もあった。

彼らは皆、長テーブルの前に座っていた。


「クラウディア様、良かった。ご無事だったのですね?!」


立ち上がり、真っ先に駆け寄って来た人物はヤコブだった。


「ヤコブ…。ええ、お陰様で何とか大丈夫だったわ」


ニコリと笑みを浮かべて返事をすると、ユダが私とヤコブの間に入って来た。


「おい、俺はお前のことを完全に信用したわけでは無いからな。あまりクラウディア様に近付くな」


「ああ‥‥分かってるから、そんな今にも噛みつきそうな視線を向けるのはやめてくれ」


ヤコブが苦笑しているところへザカリーの父親が声を掛けて来た。


「王女様、お目覚めになられて丁度良かったです。今、シチューが出来上がったところですのでお召し上がりになりませんか?」


「ええと‥‥確か貴方は……?」


「はい、私はザカリーの父、ハリーです」


「ザカリーは何処ですか?」


ザカリーの姿が無いことに気付き、尋ねてみた。


「はい、ザカリーは王女様の専属メイドの監視をしております」


「俺達で二手に分かれてシーラを監視しているんだよ」


スヴェンが教えてくれた。


「そうだったのね…」


私は考えた。

シーラがどのような方法で相手の精神を乗っ取るのかは知らない。

けれども恐らくはまだリーシャの中にいるに違いない。

何故なら私を脅迫するにはリーシャの身体の中にいるのが一番良いからだ。


「王女様、お食事にされますか?」


トマスが声を掛けて来た。


「いいえ、その前にまずはシーラの元へ行くわ。そこで食事を頂くことにしようと思うの」


皆で食事をすれば、シーラも油断して食事を口にするかもしれない。

けれど、シーラが仮に食事を拒んだとしても構わなかった。

何故なら、別に直接口から【服従薬】を摂取しなくても大丈夫だからだった。


「分かりました。ではすぐにご用意させて頂きます」


ハリーは頭を下げて来た。



そして約5分後‥‥。


台車に大鍋と、木製の取り皿にスプーンが詰め込まれた―。




****


「クラウディア様、本当にこの方法でうまくいくのでしょうか?」


夜道をシーラ達がいる家を目指しながら歩いていると、台車を引っ張っていたユダが尋ねて来た。


「何だ?お前は姫さんを信用していないのか?」


すると後ろから台車を押していたスヴェンが口を開いた。


「違うっ!俺は何もそんなつもりで言ったわけではないっ!」


ユダは後ろを振り向きながら声を荒げた。


「どうだかな~‥…。あ、言っておくけど俺は何があっても姫さんを信用するから。な?姫さん?」


スヴェンが笑顔で話しかけてくる。


「ええ、ありがとう。スヴェン」


「言っておきますが、俺だってクラウディア様を信じています。ただ……心配なだけですから」


「ユダ……」


思わずユダの顔を見上げると、スヴェンが声を上げた。


「こらっ!ユダッ!勝手に俺の姫さんと見つめあうなっ!」


そんな2人を呆れた様子で見つめるトマス。


「何だか、あの2人…『シセル』にやってきてから性格が変わりましたね。王女様に自分達の本心を知られて開き直ってしまったんじゃありませんか?」


「え?そ、そうかもね……」


トマスの言葉に私は曖昧に返事をした。


そして夜の静まり返った村には、ユダとスヴェンの口論が響き渡っていた――。



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