第1章 115 幸せな夢の間で

体調を崩してベッドで横たわっていると、倫が覗き込んできた。


『お母さんでも風邪を引くことがあるんだな〜』


『ほら、倫!お母さんは具合が悪いんだから、静かに寝かせてあげなさい。それよりも家事の手伝いしてよ!』


葵が洗濯物を畳みながら倫に声を掛けている。


『分かったよ。何すればいいんだよ?』


『買い物に行ってきてちょうだいよ。ほら、これが買い物メモ』


葵は倫に買い物メモを渡した。


『なぁ、姉ちゃん。ついでにアイス買ってきてもいいか?』


『いいけど、無駄遣いしてこないでよ』


『分かってるよ。それで、お母さんはどんなアイスが食べたい?』


え……?

倫、もしかして私の為にアイスを……?


『な〜んだ、倫。自分のじゃなくてお母さんに買ってこようと思っていたのね?』


『それもあるけどさ、自分のもついでに買おうかと思ってたんだよ』


『何よ、それ。ちゃっかりしてるわね。それじゃ私にはバニラアイス買ってきて』


『姉ちゃんだって、ちゃっかりしてるじゃないか』


口を尖らせる倫。

そんな2人を見ていると幸せが込み上げてきて……。



****


「…さん!姫さんっ!しっかりしてくれよっ!」


何処かで悲しげな声が聞こえてくる。目を開けたいのに、瞼が重くて目を開けることが出来ない。


「クラウディア様っ!しっかりしてくださいっ!おいっ!スヴェンッ!貴様…自分のことを専属護衛騎士だなんて勝手なこと抜かして、姫さんがこんなになるまで何やってたんだっ!」


「うるさいっ!貴様だって同じだろうがっ!人の事いえるのかっ?!どうして姫さんを1人にしたんだよっ!」


スヴェンとユダが激しく言い争っている声が聞こえてくる。


「あ……」


やめて……喧嘩しないで……。

けれど言葉に出そうとしても、口から言葉が出てこない。


その時――。


「何やってるんですかっ!スヴェンさんっ!ユダさんっ!王女様はお体の具合が悪いのですよっ?!」


2人の間に割って入ってきたのは…恐らくトマスだ。


「いいですか?!王女様はユダさんに錬金術を行うと仰ったのですよね?」


「あ、あぁ……そうだ…」


振り絞るような声で返事をするユダ。


「聞いたことがあるんです。錬金術は命を削って行う儀式のようなものだと。このところ、クラウディア様は立て続けに錬金術を行っておりました。そこでこのように血を吐くまで身体を酷使してしまったのではないでしょうか?」


「な、何だってっ?!」

「そんな……っ!」


スヴェンとユダが息を呑む気配を感じた。


「実は、いざというときの為に…僕は【エリクサー】を持ち歩いていました。王女様に効果があるかどうか分かりませんが、試してみようと思っています」


え…?トマス。

【エリクサー】を持ち歩いていたの?


ポンと軽く栓が抜ける音が聞こえ、トマスが私に声を掛けてきた。


「王女様、僕の声が聞こえますか?口を開けることが出来ますか」


「……」


返事をすることが出来なかったけれども、私は口を開けた。

すると口の中に【エリクサー】が流し込まれる。


「ん……っ」


何とか流し込まれた【エリクサー】を飲み込んだ途端…私は自分の身体が熱くなるのを感じた――。


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