第1章 104 口論する2人
「姫さんっ!良かった‥‥無事で…っ!!」
スヴェンは遠慮なしに私を自分の胸に埋め込まんばかりにぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。
「ス、スヴェン……く、苦し…は、離して……」
「何してるんですかっ?!スヴェンさんっ!」
リーシャが叫んでいる。
すると、スヴェンの次に駆け寄って来たユダの声が聞こえて来た。
「おいっ?!貴様‥‥!クラウディア様に何をするっ!その手を離すんだっ!」
ユダが強引に腕をはがしたのだろう。スヴェンの私を拘束する腕が緩んだ。
い、今の内に……。
何とかスヴェンの腕から逃れると、すかさずリーシャが声を掛けて来た。
「クラウディア様、大丈夫でしたか?」
「え、ええ…。私は大丈夫だけど‥‥」
返事をしながら、スヴェンとユダの様子を伺った。
「貴様…よくも断りもなく勝手にクラウディア様を抱きしめたりしたな……?」
ただでさえ目つきの悪いユダがさらに眉を吊り上げてスヴェンを睨みつけている。
「うるせぇっ!俺は姫さんの騎士なんだよっ!大体何でお前の許可がいるんだ!」
「俺はクラウディア様の護衛兵士だっ!大体何が騎士だっ!この民間人めっ!」
「だったら俺は『エデル』で騎士になってやるっ!お前を超えてみせるぞっ!」
「何だとっ?!」
スヴェンとユダは互いを睨みつけながら、激しく罵っている。
「い、一体これは何なの……?」
まさかまだマンドレイクの毒が抜けていないのだろうか?
するとリーシャが耳打ちしてきた。
「お2人とも毒はもう抜けているのですけどクラウディア様の姿が見えないことを知ると、血眼になって探し始めたのですよ。何時間も探し回って……あそこにいる人達を発見したのです」
リーシャが視線で示した先には、『シセル』に残った村の住民‥‥ザカリーやセトが呆気にとられた様子でいがみ合っているスヴェンとユダを見つめている。
そしてザカリーの姿を目にした時、肝心なことを思い出した。
そうだ‥‥!彼の父親は…?!
「ザカリーッ!」
いがみあっているユダとスヴェンの傍で彼の名を呼んだ。
すると‥‥…。
「姫さんっ!」
「クラウディア様っ!」
いがみあっていた2人が突如、私を振りむいた。
「な、何かしら?」
思わず2人の迫力に後ずさると、矢継ぎ早に口々に訴えて来た。
「姫さんっ!あいつに何の用があるっていうんだよっ?!あいつのせいで…姫さんは死にかけたんだぞっ?!そうだよな?ユダッ!」
え?私が死にかけた?
「そうです!スヴェンの言う通りです!奴は…あろうことか、クラウディア様の両手を縛り上げたうえに…あんな…寒い地下牢に閉じ込めるなど…例え、クラウディア様がお許しになろうと、この俺が絶対に奴を許しませんっ!」
ユダが突如として私の右手を取り、握りしめて来た。
「おい!どさくさに紛れて姫さんの手を握るなよっ!」
スヴェンがユダの手を払いのけた。
「うるさいっ!貴様こそ先ほどクラウディア様を抱きしめただろうっ?!」
「何だよっ!出会った当初は姫さんに酷い態度ばかり取っていやがったくせにっ!」
「あれはもう過ぎたことだっ!今の俺は違うっ!」
またしても2人は口喧嘩を始め、どんどん論点がずれていっている。
やはり、まだマンドレイクの毒が抜けていないのだろうか?
「スヴェンさん!ユダさんっ!今はそんな話をしている場合ではありませんよっ!」
リーシャが2人を止めようとしているが、口喧嘩の真っ最中のユダとスヴェンの耳には入って来ない。
仕方ない‥‥。
ベッドから立ち上がると呆気に取られてこちらを見ているザカリーたちの元へ向かった。
口論している2人と、彼らを止めようとしているリーシャをその場に残し――。
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