第1章 103 檻の中からの目覚め
「がぅああああっ!」
「あうぅうううううう‥‥」
「ああぁぁっぁああ!」
私の向かい側の檻に入れられ、足首を拘束された3人のマンドレイク中毒患者たちの身の毛がよだつような咆哮が地下道に響きわたっている。
その声も恐怖だったが、最も辛いのは寒さだった。
マンドレイクの吐き出す毒によって、『シセル』の村は毒に覆われてしまった。
そのせいで太陽の光は届かなくなってしまい、今まで訪れた場所に比べて格段に寒かった。
「寒いわ‥‥」
白い息を吐きながら、私は身を縮こませていた。
ただでさえ寒い村なのに、しかもここは地下洞なのだ。冷えるのは当然だった。
腕を拘束されていなければ身体を手でさすってみたり、吐く息で冷える指先を温めることも出来るけれども今の私にはそれすら出来ないのだ。
「ザカリーの父親は…助かったのかしら‥‥?」
彼は【聖水】を飲ませて意識を失った後に、ザカリーたちの手によって地上に運び出されてしまった。
だから私には彼の目が覚めたのかどうかは分からない。
「でも……きっと目が覚めたなら…知らせてくれるはずよね……」
寒さと、錬金術を使った疲れが私の体力を奪っていく。
だんだん頭がボンヤリしてきて、強烈な眠気が襲ってきた。
とてもでは無いけれど、これ以上起きているのも困難だった。
「その内……誰かが呼びに来てくれる‥…わよね……?」
そして私はどうしようもない眠気には抗えず……目を閉じた。
スヴェンとユダの叫び声のようなものを聞きながら――。
****
<それにしても家族4人揃って旅行に行くなんて久しぶりじゃないか?>
夫が車を運転しながら笑顔で話している。
<全く、高校生にもなって家族と旅行に来ることになるなんて思いもしなかったよ>
後部座席で倫がスマホのゲームをしながら口をとがらせている。
<何言ってるのよ。本当は一番倫が楽しみにしていたんじゃないの?知ってるんだから。あんたがネットで観光スポット探していたの。スマホに検索履歴残っていたわよ?>
葵が笑いながら倫をからかっている。
<な、何だよっ!か、勝手に人のスマホ見るなよっ!>
<それよりも…ね~。お母さんは何処に行きたいの?>
<そんなこと言ってごまかすなよ!>
<うん。そうだな。母さんは何処に行きたいんだ?>
夫が優しい声で尋ねて来た。
そうね……私の行きたい場所は……。
****
暖かい……。
ここは一体どこなのだろう……?
「お前達……姫さんに何て酷いことしてくれたんだよっ!」
「ああそうだ!クラウディア様に何かあったら、貴様らに責任が取れるのかっ?!」
何処かで、スヴェンとユダの声が聞こえている……。
「う……ん…何……?」
ゆっくり目を開けて驚いた。
何と眼前にはリーシャが私を覗き込んでいる姿があったからだ。
「え……?リーシャ……?」
するとリーシャは目を見開いた。
「クラウディア様…ひょっとして目が覚めたのですか?!」
「え?ええ……」
ゆっくり身体を起こすと、自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。そして部屋の奥では『シセル』の村人たちを相手にしているスヴェンとユダの姿が見えた。
「何っ?!姫さんが目を覚ましたのか?!」
「クラウディア様っ?!」
すると、スヴェンとユダは同時に駆け寄ってくる。
そして、真っ先に私に駆け寄ってきたスヴェンが強く抱きしめてきた――。
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