第1章 102 拘束

「よし。では今から親父が目覚めるまで拘束するぞ」


ザカリーが私に近付いた。


「では、どうぞ」


両手を前に差し出すと、ザカリーが怪訝そうに首を傾げてきた。


「これは一体何の真似だ?」


「はい。拘束してもらう為です。私が逃げないように縛るのですよね?」


「もしかして……逃げるつもりなのか?」


ザカリーの眉が険しくなる。


「まさか!逃げるはずありません」


「だったら拘束するまではしなくても良いだろう?空いている檻にいれておけばいいじゃないか」


セトの言葉に他の仲間たちが頷く。


「うん、そうだな。それでいいだろう?」

「仮にも相手は王女だしな」

「女に縄をかけるのは趣味じゃない」


「……」


ザカリーは彼等の言葉を唇を噛み締め、忌々しげに見つめている。


やはり、ザカリーとしては私を檻の中に入れるだけでは気が済まないのだろう。


「私は別に構いませんよ?」


「何?」


ザカリーが私の方を向いた。


「貴方のお父様がマンドレイクの中毒になってしまったのは私達のせいです。なのでザカリー。貴方の思うようにして下さい」


私はこの時、初めてザカリーの名を呼んだ。


「…よし、ならいいだろう。お望み通り、拘束させてもらう」


ザカリーは腰に縄をくくりつけていた。その縄を外すと私の差し出した手首に縄を掛け始めた。


「おい、ザカリー。いくら何でも…相手は姫なんだぞ?」


セトが眉をしかめてザカリーに声を掛けた。


「いいんだよ、何しろこの女から言い出したんだからな」


言いながら私の手首に縄を掛け続けている。


「……っ」


手首に巻かれる縄が意外にきつく、思わず眉をしかめてしまった。


「きついか?だが緩く縛れば解けてしまうからな」


ザカリーが不敵な笑みを浮かべた。


「「「「……」」」」


一方、ザカリーの仲間たちは眉をしかめながら私が縄を掛けられていく様子を黙って見つめていた。



そして、ザカリーによって私の手首は完全に縛られた。


「どうだ?縄で縛られた気分は?屈辱的じゃないのか?」


ザカリーは私を見下ろすとニヤリと笑った。


「いいえ、そんな事はありません」


「フン。強気な態度取りやがって」


ザカリーは私の態度が気に入らなかったのか、腕組みすると睨みつけてきた。


「すみません、そのようなつもりは無かったのですが……」


何しろ回帰前の私はボロボロの麻の服を着せられたうえ、裸足で観衆の前を鉄の足かせをはめられた上にロープで縛り上げられた身体で断頭台まで歩かされたのだから。

あの時の冷たい足かせの感覚は今も忘れることはないだろう。


「まぁいい。親父が目を覚ますまではお前は俺達の監視下に置かれるんだ。こっちへ来い」


顎で指示され、私はザカリーの目の前にある檻の前に立った。


「中へ入れ」


「はい」


私は素直に入ると、檻の扉がガシャンと閉められて鍵を掛けられた。


「親父が早く目を覚ますといいな?」


ザカリーは私が閉じ込められた檻の鍵をくるくる回しながら冷たい目で見つめてきた。


「…そうですね」


それを背後で見ていた村人たち顔をしかめてザカリーを見ている。


「ザカリー。そろそろ外の見回りに行く時間だぞ?」


不意に1人の男性がザカリーに声を掛けてきた。


「あ?ああ。そうだな。行くか」


ザカリーが私に背を向けて歩き始めた。


「ちょっと待って下さいっ!」


慌ててザカリーを引き止めた。


「何だよ?」


「あの、地上に出るなら…私の作った【聖水】を飲んでいって下さい。それを飲めばマンドレイクの毒霧を吸っても大丈夫ですから」


「は?俺にお前の作った得体のし得ない薬を飲めというのか?現に親父だって目が覚めないのに?」


「ですから、それは…」


「うるさいっ!いいかっ?親父の目が覚めるまでは……俺は絶対にお前を信用しないんだよっ!」



そしてザカリーはそのまま仲間たちと一緒に地下道を去って行った。


私と、マンドレイク中毒患者をその場に残し――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る