第1章 101 毒に侵された末期患者
「よし、それじゃまずは全員で檻の中に入ってハリーを押さえつけるんだ?いいな?」
松明を持ったセトがその場にいる全員に声をかける。
「ああ」
「分かった」
「確かに1人じゃ無理だからな」
「俺が一番最初に入って親父を捕らえる。そうしたら全員で押さえつけてくれ」
ザカリーが名乗りを上げた。
「分かった。そうだな。息子のお前がやったほうがいいかもしれん」
セトが頷く。
「よし……それじゃ入るか」
そしてザカリーは私を振り向くと声を掛けてきた。
「マンドレイクの末期患者とはどのようなものか、その目でしかと見るがいい」
「はい、分かりました」
頷くと、ザカリーが仲間に松明を手渡した。
「持っていてくれ。それじゃ行くぞ」
ザカリーの言葉に全員が頷く
「気を付けろよ?ハリーは完全に理性を失っているからな」
セトの言葉を聞きながらザカリーは扉に手をかけた。
キィイイ〜…
鉄の扉が開かれ、ザカリーが檻の中へと入った。
足かせをはめられ、両足の自由を奪われて俯いている男性の元へザカリーが近づく。
「親父……」
すると…。
「グワァァァアアッ!!」
突然男性は顔を上げて吼えた。
大きく見開かれた目は血走り、口からは獣のように涎を垂らした男性は腕を振り回してザカリーに襲いかかってきた。
「親父っ!すまないっ!」
ザカリーは叫ぶと、男性の背後に周りこんで羽交い締めにした。
「皆っ!来てくれっ!」
そのままの姿勢で仲間たちに叫ぶザカリー。
「分かった!」
「行くぞっ!」
男性達は次々に檻の中へ駆け込み、一斉に男性を床に取り押さえた。
「ガウッ!!ガアアアアッ!!」
物凄い力で暴れる男性を抑え込みながらザカリーが私に叫んだ。
「おいっ!早く薬を飲ませろっ!」
「はいっ!」
大きな声で返事をすると、檻の中に入って男性に近づいた。
「それでは口を開けさせて貰えますか?」
「分かった!」
ザカリーが男性の上顎と下顎を掴み、強引に口を開けさせた。
「は、早く薬を…入れろっ!」
男性の抵抗する力が相当強いのだろう。
「はいっ!」
ザカリーの言葉に瓶の蓋を開けると、男性の口に【聖水】を流し込んだ。
「があああっ!」
「お願いですっ!【聖水】を飲んでくださいっ!」
するとザカリーが今度は強引に口を閉じさせると、男性の喉が鳴って【聖水】を飲み込んだ。
「の…飲んだかっ?!」
ザカリーが尋ねてきた。
「はいっ!」
「ガウッ!ガウッ!」
まるで狼のように叫び、暴れていた男性はやがて…静かになった。
「……おとなしくなったぞ?」
「どうしたんだ…?」
訝しむザカリー達。
「もう大丈夫です、【聖水】が効き始めて眠りについたのです」
私の言葉に全員が男性から離れた。するとセトが男性の顔を覗き込んで確認する。
「本当だ……眠っている…」
「それではこの方が目覚めるまで、どうぞ私を拘束して下さい」
私はザカリーに両手を差し出した。
「……」
ザカリーは少しの間、私を見つめると口を開いた。
「拘束する場所と言っても…ここしかないぞ?」
他の檻の中では相変わらずマンドレイクの毒に侵された人々が叫んでいる。
「いくら何でも、ここに拘束するのはどうかと思うぞ?万一他の連中が暴れて檻を破ったりしたら…」
1人の男性がザカリーに声をかけた。
「だったら何処に拘束するんだよっ!」
苛立ちを含んだザカリーの言葉に、その場の雰囲気が一気に悪くなる。
このままではまずいかもしれない。
「大丈夫です、構いません。どうぞ私をこの檻の中に拘束して下さい」
私の言葉に、その場にいる全員が視線を向けた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます