第1章 93 解毒作業
3人だけで使者たちの解毒作業を進め……ついに残るは剣を振り回している使者達のみとなった。
「どうしましょう…クラウディア様。とてもあの人達には私達だけでは近づけそうにないですよ……」
リーシャは怯えている。
「ええ、そうね…。困ったわ…」
「すみません…頼りにならない男で……」
何故かトマスが謝罪してきた。
その時……。
「姫さーんっ!」
「クラウディア様っ!」
紫色の霧の中から声が聞こえ、スヴェンとユダがこちらに駆け寄ってくる姿が見えた。
「スヴェンッ!ユダッ!」
私は彼等に声を掛けた。
良かった……。2人が来てくれれば剣を振り回している使者達も解毒できる。
「遅くなってすまなかった、姫さん」
「すみません。仲間の解毒作業をお任せしてしまって」
2人は交互に私に声を掛けてきた。
「いいのよ、でも良かったわ。2人とも正気に戻って」
すると何故か途端に2人の顔が赤く染まり、視線をそらされてしまった。
もしや、マンドレイクの毒に侵されていた時の記憶が2人に残っているのだろうか?
けれど私は互いの為に、あえて何も聞かないことにした。
「ユダさん、スヴェンさん。まだ解毒が終わっていない人達はあそこで剣を振り回している人達なんです。僕達の代わりにお願いできますか?」
私の代わりにトマスが2人に声を掛けた。
トマスの視線の先には今は戦いをやめ、剣を振り回している兵士たちの姿があった。
「確かに彼等に近づくのは危険だな」
ユダは仲間の兵士たちを見た。
「ああ、任せろ」
スヴェンが頼もしい返事をする。
「それではお願いね。これが【聖水】よ。数滴皮膚に垂らすか、口の中に入れてあげて」
私はスヴェンに【聖水】を渡した。
「分かったよ、姫さん」
「それではリーシャ、トマス。行きましょう」
私がリーシャとトマスに声を掛けると、スヴェンとユダが慌ててた。
「え?姫さん、どこへ行くんだ?」
「危険ですからあまり出歩かないで下さい」
「これから『シセル』で栽培されているマンドレイクの毒を無効化させなくてはいけないのよ。皆で手分けして作業をしないと、この村の毒が消せないわ」
栽培されているマンドレイクの毒は薄めた【聖水】でもある程度弱めることが出来る。まずはリーシャとトマスにマンドレイクの毒を薄めてもらう作業を頼み、私はどこかで【聖水】作りをしなければならない。
「そうですか、それでは仲間全員の解毒を終え次第、我々も手伝います」
「そうだな、そうしよう」
頷くユダとスヴェン。
「ええ、よろしくね」
そして私はリーシャとトマスを連れて荷馬車へと向かった。
荷馬車の中には毒に侵されていない水が樽の中に入っている。その水の中に【聖水】を入れてマンドレイクの毒成分を浄化させなければならないからだ。
****
「リーシャ、トマス。これが【聖水】よ」
馬車にやってくると、私はリーシャとトマスに自分の持っている全ての瓶を渡した。
「これが【聖水】なのですね…」
リーシャは瓶の中身をまじまじと見つめている。その様子が少し気になったけれども、今は一刻を争う事態だ。
「ええ、そうなの。この【聖水】1瓶を樽の中の水に混ぜてくれる?その水をマンドレイクに掛けると、毒が薄まるわ。まずはこの毒霧の発生を押さえないと」
「はい、クラウディア様」
「分かりました。王女様」
「作業は2人に任せるわ。私は他にすることがあるから」
こんな言い方ではリーシャに何をしに行くのか問われてしまうかもしれない。
その時は何と答えればいいのだろう?
思い悩んだけれども、意外なことにリーシャは何も尋ねてはこなかった。
「はい、分かりました。それでは2人でやります。大丈夫ですよね?トマスさん」
「ええ、勿論です」
「そう?それではよろしくね」
私はトマスとリーシャに声を掛けると、【聖水】作りをする為に空き家探しに向かった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます