第1章 94 『シセル』が毒に侵された理由
私は辺りを用心しながら安全に【聖水】作りが出来る空家は無いか、探索を始めた。
回帰前の記憶では、ここ『シセル』は『エデル』の国境に一番近いということで、最も危険に晒された村であった。
そこでこの村には大きな地下シェルターが作られていたのだ。
『シセル』の地下シェルターはどこかの家の地下室から行けるようになっているのだが、そこまで詳しいことは私には分からない。
そして、そのシェルターに今も村に残った僅かな領民達は暮らしているのだ。
身体がマンドレイクの毒に侵食されないように……。
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ここで暮らしていた領民たちは、私の父である国王の命によりマンドレイクの栽培をするように命じられていた。
何故、『シセル』の領民達にマンドレイクを栽培させていたのか?
それは幻覚作用や神経麻痺を起こさせる毒物を作り出し、『エデル』の戦力を毒で奪うつもりだったからだ。
しかし、大量に栽培したマンドレイクは『レノスト』王国の敗戦という形で結局使われることなく、そのまま放置されてしまった。それが危険を伴うことを彼らは知りながらも。
何しろマンドレイクは引き抜くと叫び声をあげ、その声を聞いたものは死に至ると言われている植物である。
領民達はマンドレイクの処分をどうすれば良いのか、方法を探し回った。けれども妙案は思いつかなかった。
そこで今度は『レノスト』国にマンドレイクの処分を頼もうとしたが、国は敗戦し、国王や重臣たちは根こそぎ捕まり、処刑されてしまった。
結局頼り場所を無くした領民達は、そのままマンドレイクを放置するしかなかったのだ。
けれど大量に栽培されたマンドレイクを放置したまま村を捨てるには流石に良心が痛む…。
そういう訳で、『シセル』の有志達が村に残る決意をしたのだ。そして残りの領民達は全員『エデル』の国へと移り住んでいったのである。
『シセル』の村に残った領民達は私が訪れたことで、マンドレイクの毒から救って欲しいと訴えて来たけれども…恐怖にかられた私は『エデル』の使者達に早くこの村から連れ去ってくれと訴え、逃げるように去って行った。
私は、助けを求める領民達を見捨てて逃げてしまったのだ。
錬金術を使って、村を救える手段を持ちながら……。
そして、とうとう『シセル』の村は残された人々と共に滅びてしまった。
そして私がこの話を知ったのは…『エデル』へ嫁いだ後のことだったのだ――。
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「ここに残った領民達は全員地下シェルターに避難しているはずだけど、何処かに逃げ遅れて取り残されてしまった人たちがいるかもしれないわ‥‥」
辺りを用心しながら私は家を探した。
紫色の毒霧のせいで、周囲の視界は悪い。
いつ、どこで毒に侵されて我を失った領民が現れてくるかも分からない。
刃物でも振り回されれば、私のようなひ弱な者はあっという間にやられてしまうかもしれない。
そんな中、空き家を探して歩きまわるのは…恐怖だった。
本来であれば、護衛にスヴェンかユダを連れて来たかった。
けれども彼らには彼らのするべき仕事がある。
「そうよ…。これは贖罪。父が勝手に起こした戦争の後始末をするのは王女としての私の役目なのだから」
あなた…葵…倫…どうか、私を守ってね…。
日本に残してきた家族の顔を思い浮かべ、勇気を振り絞りながら私は空家を探すべく、『シセル』の村を歩き回った――。
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