第1章 91 毒に侵された村『シセル』4
「大丈夫でしたか?!クラウディア様っ!」
鼻と口をスカーフで覆ったリーシャが駆け寄って来た。
「一体何があったというのでしょう?!」
トマスも既に口元を布で隠している。
「あの2人……マンドレイクの毒にやられてしまったのよ!」
ユダとスヴェンは2人で剣で打ち合っている。
ガキィイイイインッ!!
キィイイインッ!!
兵士であるユダの剣技は素人の私から見てもすごかった。けれど、それよりももっと驚きなのが、兵士でもないスヴェンがユダと互角に戦っているのだ。
スヴェンは『アムル』で自警団に所属していただけのことはある。
「くっ!貴様…っ!なかなかやるなっ?!」
剣を振り下ろしながらユダが叫ぶ。
「ああ、当然だ!何しろ勝った方が姫さんを手に入れることが出来るのだからな!」
振り下ろされる剣を素早く交わすスヴェン。
「何だとっ?!クラウディア様は誰にも渡さんっ!!俺の物だっ!!」
「勝手に決めるなよっ!!」
2人は勝手なことを言い合いながら剣を交えている。
「な、何言ってるんですかっ!2人ともっ!勝手なこと言わないで下さいっ!」
「そうですよっ!王女様は『エデル』の国王に嫁ぐ身ですよっ!」
リーシャとトマスが必死に叫ぶ。
「そんなことは知るかっ!」
「そうだっ!知ったことかっ!」
あろうことか、スヴェンとユダは同時に声を上げた。
「駄目よっ!2人とも!あの2人は完全にマンドレイクの毒に侵されているから何を言っても無駄よっ!まずは正気に戻すことが先決よ!」
このままでは…今に2人とも、命が危ない。動けば動くほどに毒を吸い込んでしまう。
「王女様‥‥正気に戻すって‥‥どうするおつもりですかっ?!」
「これを使うのよ」
私はメッセンジャーバッグから【聖水】を取り出した。
思わぬところで【聖水】を使ってきたので、大分残りの本数が減っている。とりあえずは、スヴェン達の解毒をした後にまた新たに作り直さなくては。
私はリーシャをチラリと見た。
まだ敵か味方か分からないリーシャの前で【聖水】を使うのはリスクがあった。
けれども今は一刻一秒を争う事態。躊躇っている余裕は無かった。
ユダとスヴェンは今も一歩も引かない戦いを繰り広げている。
そこで私は深呼吸すると、これまで出したことの無いほどに大きな声を上げた、
「お願いっ!!やめてっ!2人ともっ!」
すると私の言葉が2人の耳に届いたのか、ピタリと戦いをやめた。
「お願い‥‥戦うのはやめて?2人とも……。貴方たちは大切な仲間なのよ。争うのはやめて」
「姫さん‥‥」
「クラウディア様」
2人は同時に私の方を見る。
「ですが‥‥」
「だけど、姫さん…」
「話は後で聞くから、今は私の言うことを聞いてくれる?」
きっと解毒すれば2人は正気に戻るだろう。
「分かったよ、大切な姫さんを困らせるわけにはいかないからな」
「う、うむ…そうだな…」
スヴェンに促され、ユダは渋々返事をする。
2人が剣を収めると、私は2人の元へ向かった。
「ありがとう、2人とも。戦いをやめてくれて」
「いや…姫さんの頼みならきかないとな」
「当然ですよ」
スヴェンとユダが返事をする。
私は2人の前に【聖水】を差し出した。
「2人はマンドレイクの毒に侵されているわ。これを数滴、口に入れて飲んでくれる?」
「わ、分かったよ…ほかならぬ姫さんの頼みだからな……」
スヴェンは蓋を開けると上を向き、数滴【聖水】を口の中に垂らすと、ユダに差し出した。
「お前も飲め。姫さんの為にな」
「…分かった…」
ユダもスヴェン同様、【聖水】を数滴垂らすと蓋を閉めた瓶を返してきた。
「どうぞ、クラウディア様」
「ええ、ありがとう」
すると、ユダは顔を真っ赤に染めて視線をそらせた。
「い、いえ…。それでどれくらいで解毒出来‥‥」
口に仕掛けたユダは突然力が抜けたかのように地面に崩れ落ちてしまった。その直後にスヴェンも地面に倒れこむ。
「ど、どうしたのですかっ?!2人ともっ!」
リーシャが慌てて2人に声を掛けるも、既にユダとスヴェンは重なるように倒れこんで気を失っている。
「解毒する為に、安静を保つ為に強制的に一時的な睡眠状態に入ったのよ。多分目が覚めたときには毒が消えているはずよ」
そして私はリーシャに【聖水】を手渡した。
「2人も念の為に【聖水】を口にしておいた方がいいわ」
「はい」
リーシャは素直に口に入れると、次にトマスに手渡した。
「ありがとうございます」
トマスも【聖水】を口にすると、瓶を返してきた。
「もう、これで大丈夫よ。それでは他の人達の元へ向かいましょう?」
声を掛けると、トマスが尋ねて来た。
「あの……スヴェンさんとユダさんはどうしますか?」
私は地面に倒れて眠りにつく2人を見た。
「このままで大丈夫よ。恐らく目を覚ますまでに30分もかからないと思うから」
「分かりました」
「では行きましょう」
私の言葉にリーシャとトマスは頷いた。
そして私たちはその場に2人を残し、他の人達の所へ戻った。
目が覚めた時、スヴェンとユダの記憶が消えていることを祈りながら――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます