第1章 86 和解
「クラウディア様……」
ヤコブが信じられないといった目で私を見ている。
今、ここでヤコブが本当のことを言えばユダ以上に酷い扱いを受けるのは目に見えて分かっていた。
けれども私はそんな事は望まない。
ただでさえ、この旅は過酷なのだ。
ここまできて、これ以上の争いごとは起きてほしくなかった。
すると、スヴェンが助け舟を出してくれた。
「うん、そうだな。姫さんの言うとおりだ。何しろかつて敵国だった敗戦国の姫が嫁いでくるんだから、姫さんをよく思わない輩が大勢いるはずだ。そいつ等が何らかの手を使ってきても別に不思議なことじゃないものな?」
「スヴェン……」
「そうだ。クラウディア様とスヴェンの言う通りだと思う。とりあえずマンドラゴラは撃退することが出来たのだ。早いところ、『シセル』へ向かおう。あと僅かで到着するはずだからな」
ユダの言葉にその場にいた全員が頷いた。
すると今まで口を閉ざしていたヤコブがユダに声を掛けた。
「ユダ、やはりお前がリーダーを務めてくれ」
「ヤコブ…」
「アンデッドもマンドラゴラもお前と、そこにいるスヴェンのお陰で我々は命拾いしたのだからな。他の皆も構わないだろう?」
ヤコブが周囲にいた仲間たち全員を見渡した。
そして……勿論そこには反対するものは誰一人としていなかった――。
****
「でも、ほっとしました。元通りの関係に戻れて良かったですね」
再び動き出した馬車の中でリーシャが嬉しそうにしている。
「ええ、本当に良かったです。ここだけの話ですが……やはり、ユダさんがリーダーが一番安心できますよ」
トマスが小声でそっと言った。
「確かにそうですね。ユダさんは目つきが悪いですが、リーダーシップがありますよね?それに中々強いし……」
「そうね。確かにリーシャの言う通りかもしれないわね」
「ええ。でもそれだけじゃありません。きっとこの先もユダさんはクラウディア様の為ならスヴェンさんの様に命懸けで守ろうとすると思いますよ?ね、トマスさんもそう思いますよね?」
リーシャがトマスに同意を求めてきた。
「ええ、僕もそう思います」
「え……?そうかしら……?だって私は敵国の姫なのよ?確かに今は私を『エデル』に送り届ける為に護衛をしてくれているかもしれないけれど、それも到着するまでよ」
何しろ、回帰前……『エデル』の国では私の味方は誰1人としていなかった。
ただ1人、リーシャを除いては……。
しかし、私の考えを否定するかのようにリーシャとトマスは首を振った。
「いいえ、そんな事はありませんよ。何しろユダさんはクラウディア様に対して特別な感情を抱いていますから。勿論スヴェンさんも同じですけどね」
リーシャの言葉に首を傾げた。
「特別な……感情……?」
一体それはどういうことだろう?
そんな私を見ながらトマスさんがため息を付いた。
「はぁ〜…スヴェンさんもユダさんも…お気の毒です……」
「そうですね。クラウディア様って意外と鈍い方なのですね」
トマスもリーシャも2人だけで何か納得した様子だったが、結局私には理解できなかった。
私がその言葉の意味を知るのは……もう少し後のことになる。
そして、いよいよ『レノスト』王国最後の領地、毒に侵された村『シセル』が私達の前に不気味な姿を現した――。
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