第1章 87 ユダからの意外な言葉
『シセル』の村が近づくにつれ、空気はどんよりと濁り始めた。薄紫色のモヤのようなものに村全体が包み込まれている。
青空だったはずの空は重たい雲で覆われ、太陽が差し込むことは無い。
同じだ……この光景は回帰前と……。
「クラウディア様……。あ、あの村が『レノスト』国の最後の領地……『シセル』ですか?」
リーシャが震えながら尋ねてきた。
「ええ、そうよ……」
私は眉をしかめながら、どんどん近づいてくる『シセル』の村を見つめながら返事をした。
「そんな……噂には聞いていましたが、あれでは人が住んでいるかどうかも分かりませんね……」
トマスも声が震えている。
「あの村は、『エデル』から最も近い場所に位置する村ということで…悲劇に見舞われたのよ」
「クラウディア様、それって一体どういうことですか?」
リーシャが尋ねてきた。
「ここへ来る時、マンドレイクに襲われたでしょう?」
「ええ、そうですね。驚きましたよ。大体マンドレイクが生息しているとは思いもしませんでした」
トマスの言葉に私は首を振った。
「いいえ、違うわ。生息していたわけではないの。『シセル』の村で栽培されていたのよ。国の命令で……」
「えっ?!」
「何故ですかっ?!」
リーシャとトマスが驚きの声を上げる。
「それは……」
そこまで言いかけた時突然馬車が止まり、窓から馬にまたがったユダが声を掛けてきた。
「クラウディア様、ご相談したいことがあります」
「ええ、何かしら?」
「もう後僅かで『シセル』の村へ到着します。しかし、仲間とも話し合ったのですが我々は立ち寄るのをやめようかと考えております。水も食料もまだ補給しなくても、持ちそうですし、第一村があの様子では、滅んでいる可能性もあるからです。我々が行きにあの村に立ち寄ったときはここまで酷い状況では無かったのですが……」
ユダの言葉に驚いた。
まさか、『エデル』の使者達の方から『シセル』に立ち寄ることをやめようかと考えているとは思いもしなかった。
回帰前は私が、あんな不気味な村には立ち寄りたくないと必死で拒んだのに無理やり『シセル』に連れて行ったのに?
思わずユダの言葉に驚き、じっと見つめると何故かユダは顔を赤らめて視線をそらせてしまった。
「ユダ……本当に『シセル』の村に寄るのをやめるの?王命でこの村に立ち寄る様に言われているのではないの?」
するとユダの肩がピクリと動いた。
「な、何故それを…?い、いえ。確かにその通りなのですが……下手にあの村に近づけばクラウディア様が危険な目に遭うかもしれませんので」
「でも、王命に従わなければ罰せられるのではないの?」
「そ、それは……」
私の問いかけにユダの顔が歪む。
「もし、あの村に立ち寄らなければ私達まで罰せられてしまうのですか?」
リーシャの問いかけにユダは首を振った。
「いや、それはない。我々の独断で勝手に決めたことだと報告すれば良いだけだからな」
「そうですか、なら別に立ち寄らなくても……」
トマスが言いかけたけれども、私は首を振った。
「いいえ、行くわ。『シセル』に」
「クラウディア様。本気ですか?!」
ユダが感情を顕にした。
「ええ、本気よ。まだ『シセル』の村人たちはまだ生きている。そして…助けを求めているわ。私は『レノスト』王国の王女として皆を助けなければいけないの。それが私の贖罪なのよ。お願い、皆にも手を貸して欲しいのよ」
私はそこにいる全員の顔を見渡した――。
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