第1章 85 マンドレイク 2

「クラウディア様!」


ユダが駆け寄って来た。


「ユダッ!自由になれたのねっ?!」


「はい、そうです。クラウディア様のお陰です」


「それは良かったわ……前方にまだマンドレイクが残って皆が戦ってるわっ!貴方の剣ならマンドレイクを倒せるでしょう?!早く加勢に行って!」


「承知しましたっ!」


ユダは頷くと、他の兵士たちと共にマンドレイクに向かって駆けて行った。


「ユダ‥‥…お、俺も‥‥」


ヤコブが苦しそうに息を吐きながら身を起こそうとする。


「駄目よ、ヤコブ。貴方は一度マンドレイクの体内に取り込まれてしまったのよ。もう少し遅ければ死んでいたかもしれないわ。いくら【聖水】を飲んでもそんなにすぐには動けないわ」


「【聖水】‥‥ほ、本当にそんなものがあったのですね‥‥…【エリクサー】と同じ、とても希少価値の…た、高いものなのに…ひょっとして、やはりクラウディア様が‥‥?」


「‥‥…」


私は黙っていた。

するとヤコブが苦笑した。


「フ‥‥俺が信用出来ないのは‥‥当然ですよ…ね…。クラウディア様は俺を疑っているでしょう…?ユダを陥れたのが……俺だって…」


「それは…私は貴方の口から直接聞きたいわ」


ヤコブはため息をつくと言った。


「ええ、そうですよ……俺がユダを陥れようとしました…あいつと俺は友人だったのに…戦争であいつは階級が上がってしまい…上司と部下のような関係になってしまった。ユダは勿論今までのように俺に接してきましたが…俺はそれが同情されているようで…悔しくて情けなくて…しかも俺たち兵士が憧れの銀の剣まで貰って…」


「そう…」


銀の剣は魔力を帯びている。闇の属性や毒を持つ生物に絶大なる効力を発揮する剣だ。


「それで配給された匂い袋をすり替えたのね?」


「ええ‥‥そうですよ。すり替えるのは簡単な事だった…。【死の大地】でまさかあんなにことがうまく運ぶとは思わなかった。あのあたり一帯は毒蛇の巣がゴロゴロしていたんですよ…。それにアンデッドだって…」


「貴方が鈴で呼び集めたのでしょう?」


「やはり…気付いていたのですね‥‥?」


「ええ、アンデッドは鈴の音に引き寄せられるから。貴方はユダが銀の剣を持っていくのを知っていたのでしょう?だから危険を承知でアンデッドの生息地隊で鈴を鳴らしたのね?」


「そうですよ…。でも…クラウディア様…本当は俺たちは…」


ヤコブがそこまで言いかけた時――。


「姫さーんっ!!」

「クラウディア様っ!!」


スヴェンとユダを先頭に、『エデル』の兵士たちが駆け寄って来た。


「マンドレイクはどうなったの?」


早速駆け寄って来た全員を見渡しながら尋ねた。


「はい、おかげさまで全て殲滅させることが出来ました」


「もう安心だぜ?」


スヴェンとユダが交互に教えてくれた。


「この2人のお陰です」

「命拾いしました」

「我々だけでは全滅していたかも」

「ありがとう!」


兵士達が次々とユダとスヴェンに感謝の言葉を述べている。

そこで私は自分の考えを伝える為に手を上げた。


「皆、ちょっといいかしら。今回のことで分かったでしょう?貴方たちの命を脅かそうとしていた人が、命懸けで助けると思う?」


すると全員、気まずそうに黙ってしまった。


「あなた方に疑われ、拘束された上に監視されていたにも関わらず、ユダは貴方たちを助けたのよ?これでもまだ彼を疑うの?ユダは無実よ。私は…彼を信じるわ」


そしてユダを見た。


「クラウディア様……」


すると…口々に兵士たちは言いあった。


「確かにそうだよな」


「ユダがいなければ今頃どうなってるか分からなかったよ」


「アンデッドの時も助けてもらったし…」


「何よりユダだって毒蛇に噛まれていたものな」



「それじゃ…」


私が言いかけると、すっかり身体が回復したヤコブが起き上がった。


「そうだ、ユダは無実だ。実は俺が‥‥」


話しかけたヤコブを制する様に私は言葉を重ねた。


「私は恐らく『エデル』では歓迎されない人質姫なのでしょう?私のことをよく思わない何者かが事前に危険生物を引き寄せてしまう匂い袋をすり替えて、貴方たちに持たせたに違いないわ。旅の途中で私の命が危機にさらされるように目論んでいたのかもしれない…。貴方たちは多分私のせいで危険な目に遭っているのよ。本当に…ごめんなさい」


私は全員に頭を下げた――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る