第1章 77 怪しいヤコブ
「ねぇ、何処へ行くの?ヤコブ」
「え?!」
ヤコブは驚いた様子で私を振り返った。
「ク、クラウディア様…ど、どうかされたのですか?」
明らかに狼狽えた様子でヤコブが私に声を掛けてきた。
「ええ。横になって休もうかと思ったのだけど…なかなか眠れずにいたのよ」
「眠れなかった…?そんなはずは…」
本人は小声で言ったつもりかもしれないが、最後のつぶやきは私に聞こえていた。
けれどあえて聞こえないふりをし、ヤコブに尋ねた。
「ヤコブ、貴方も眠れなかったの?」
「え、ええ…そうなんです。それでこの廃村で旅に使えそうな物は無いだろうかと探しに行こうとしていたのです。なのでどうぞクラウディア様はお休み下さい」
「なら私も行くわ。1人よりも2人で一緒に探した方が早いでしょう?」
立ち上がり、ヤコブに近付くと足を止めた。
「し、しかし…」
明らかに動揺を隠せないヤコブに私は声を掛けた。
「どうしたの?早く行きましょう」
「いえ、どうぞクラウディア様はお休み下さい。一介の兵士の用事に王女様が付き添うものではありませんので」
「そんなこと気にする必要無いわ。でも…休むのなら私よりもヤコブの方が休むべきじゃないかしら?私は馬車の中でいつでも休めるけれど、貴方は馬に乗っているから休めないでしょう?」
「それなら大丈夫です。我々兵士はそれこそ戦争中は丸2日寝ずに進軍した経験もありますので」
ヤコブはあくまで引こうとはしない。彼が何処へ行こうとしていたかは分かり切っている。だからこそ尚更私は彼の動きを止めなければならない。
「戦争はもう終わったのよ。だからもう無理する必要は無いでしょう?ヤコブ。貴方は『シセル』が今どれだけ大変な状況に置かれているか分かっているのでしょう?」
「え、ええ…。ですが、何故クラウディア様がそのことを…?」
「私は『レノスト』国の姫よ?領地で何が起こっているか位把握しているわ」
本当は回帰しているからこそ知っているのだが、その話を口にするわけにはいかない。
「クラウディア様…」
「これから向かう『シセル』は行くだけで危険な場所なのでしょう?私はあの死にかけた村を救いたいの。その為には貴方たちの助けが必要なのよ。だから…1人でも欠けて欲しくないの。お願いします」
私はヤコブに頭を下げた。
「よ、よして下さいっ!クラウディア様っ!そんなことされたって…俺は…」
その時―
「何してるんだ?姫さん」
背後でスヴェンの声が聞こえた。
「え?」
振り向くと、スヴェンが腰に腕を当ててこちらを見ていた。
「お、お前まで起きていたのか?」
ヤコブが慌てたようにポケットに手を入れたその時。
リーン
地面に鈴が転がり、すかさずヤコブは拾い上げた。
「鈴…?貴方のなの?」
「ええ、実はさっき道端に転がっていたので拾ったのですよ。とても綺麗な音色だったので。それより、お前寝ていたんじゃないのか?」
「ああ、寝ていたら話し声が聞こえて目が覚めたんだよ。そしたら姫さんとお前が話をしている姿が目に入ったから声を掛けたんだよ。それにしても…何処へ行くつもりだったんだ?そっちはユダが監禁されている家の方角だよな?」
「あ、ああ。そうだ。ユダの様子を見に行こうと思っていたんだ」
「けど姫さんには、違うこと言ってたよな?確かこの廃村で旅に使えそうな物は無いだろうかと探しに行こうとしていたと話している気がしたけどな?」
「え…?」
一体スヴェンはいつから目を覚ましていたのだろう?
ひょっとして…初めから寝ていなかった…?
「それはついでだ。ユダがおとなしくしているか確かめに行こうとしていただけだ」
先程からヤコブは随分焦っているように見える
「そうか。なら一緒に行こうぜ。な?姫さん」
「え、ええ。そうね…」
するとヤコブが首を振った。
「いえ…やはりやめておきます。考えて見れば、あんな足枷をはめられた状態で錠前で鍵もかかっているのに逃げられるはずないですからね。戻って少し仮眠をとることにします」
そして踵を返し、荷馬車の方向へ歩き去ってしまった。
「ありがとう、スヴェンのお陰で助かったわ。眠っていたかとばかり思っていたのに…」
「ああ、実は…そのことで姫さんに話しておきたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
スヴェンの顔は真剣だった――。
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