第1章 76 気配
その後、私達は廃村となった村でスヴェンの言葉通り4時間休憩することになった。
スヴェンをはじめ、『エデル』の使者達は余程疲れ切っているのか泥のように焚火の傍で眠りに就いている。
「……」
一方、馬車の中で自由に休憩できる私たちは寝ることなく彼らから離れた場所で秘密の相談をしていた。
「ねぇ…2人はどう思う?」
ユダとヤコブの双方から聞かされた話をリーシャとトマスに話し、意見を求めた。
「う~ん…僕はどうもこじつけのように感じますね」
トマスが腕組みしながら答えた。
「そうですね。何だか無理やり罪をかぶせようとしているようにも感じますけど、言われて見ればああ、確かに犯人かもしれないと思わせる何かがあります」
「え?リーシャはそう思うの?」
そう言えばリーシャとユダは相性が悪かった。
「ええ、だってユダさんって目つきが悪いじゃないですか。目なんかこーんな吊り上がっていて」
リーシャが自分の目じりを人差し指で持ち上げた。
「なぁに?それって…」
リーシャの顔真似が可愛らしくて少しだけ、笑ってしまった。するとリーシャが私を見て安堵のため息をついた。
「あぁ…良かった。クラウディア様がようやく少しだけ笑って下さって」
「え?」
「いえ、この旅が始まってから…何だかずっと思いつめた様子でしたから…」
「そうだったかしら?」
でも確かに心の休まるときは無かったかもしれない…。
「早く『エデル』に到着するといいですね?人質妻などと呼ばれてしまっておりますが、きっと国王様は王女様を大切にしてくださいますよ。王女様は美しいし、とても聡明なお方ですから」
真顔で言われてしまうと照れる気も失せてしまう。
「ありがとう…トマス」
「いいえ。思ったことを正直に述べているだけですから」
笑顔のトマスには本当のことは伝えられなかった。
恐らく『エデル』に到着してからが私の本当の苦難の幕開けになるのだということを…。
「ところでクラウディア様」
不意にリーシャが小声で話しかけてきた。
「何?」
「御覧下さい。『エデル』の人達…全員身じろぎせずに眠っていますよ」
「ええ、そうね。みんな疲れ切っているから。…私達も少し休みましょう?多分ここを出発すれば、もう休憩を挟まずにこのまま『シセル』へ行くはずだから」
「クラウディア様…よくご存じですね」
リーシャが目を見張る。
「本当に王女様はまるで千里眼をお持ちのような方ですね」
トマスは感心した様子で私を見つめる。
「それは一応領地のことだから、それなりに勉強してきたから少しは分かるわよ。次の村でも忙しくなるはずだから休みましょう?」
私は無理やり2人を寝かせることにした。
「分かりました…」
「では少し休みことにします」
リーシャとトマスは寝袋の中に入ると目を閉じ…すぐに眠りについてしまった。
2人の様子を見ながら、疑惑は確信に変わった。
やはりそうだ。
先程から感じていたこの異変……。
泥のように眠るエデルの使者達。
そして微かに辺りに漂っている甘い香り…。
錬金術師である私はこの香りを知っている。だから事前に【聖水】を僅かに摂取しておいたのだ。
【聖水】はありとあらゆるものに耐性がある。そしてそれは毒に限ったものでは無い。
私も寝袋に入り、彼が行動するのをじっと待った。
やがて…。
何者かが起き上がり、立ち上がった気配を背中越しに感じた――。
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