第1章 63 戻らない彼等
「な、何だ?!あの悲鳴はっ!」
ヤコブが剣に手を添えた。
「向こうから聞こえたぞ!」
「ライが向った方角だ!」
「まさか…奴の悲鳴か?!」
「スヴェン!我らは様子を見てくるのでクラウディア様を頼むっ!」
ヤコブがスヴェンを振り返った。
「ああ、任せておけ。姫さんは俺が守る」
スヴェンが頷くと、ヤコブは仲間に声を掛けた。
「よし!行くぞ!」
『おうっ!』
ヤコブは仲間を連れて声の聞こえた方角へ駆け足で向った。
「あの声…大丈夫かしら…」
何だか非常に嫌な予感がする。
「どうだろうな…でもただごとでは無かったな…」
スヴェンはヤコブ達が向った先を睨みつけている。
その時―。
馬の蹄の音が聞こえてきた。
振り向くと、ユダを先頭に馬にまたがった兵士たちがこちらへ向って掛けてくる。
ユダは私の姿を見ると、馬を走らせる速度を上げた。
「クラウディア様っ!何をなさっているのですか?!」
私の近くで馬を止めるとユダが尋ねてきた。
「それが…」
すると何故か、スヴェンが進み出てくると私の代わりに答えた。
「昼飯の準備を始めるって話を姫さんが知って、手伝う為に洞窟から出てきたんだよ。そしたら何が気に入らないのか、ライと言う人物が姫さんにイチャモンをつけてきたんだ」
「何だって?ライが?」
ユダの顔が険しくなる。
他の兵士たちは黙ってスヴェンの話を聞いていた。
「ああ、それでそのまま向こうの方角へ行ってしまったのさ。それからすぐさ。ヤツの悲鳴があがったのは」
「何?」
ユダの顔色が変わった。
「悲鳴だって?」
「まさか…」
「ライの悲鳴か?」
「それで、俺を残して全員が様子を見に行ったんだよ」
スヴェンが再び、ライが消えていった方角を指さした。
「我らも行くぞ!」
ユダは馬にまたがったまま、仲間たちに声を掛けた。
「ああ!」
「分かった!」
「急ごう!」
そして彼等もまたヤコブ達の後を追った。
****
あれから一向に誰も戻ってくる気配がない。
一度洞窟にトマスとリーシャの様子を見に行ってみると、2人は疲れていたのか眠りについている。
せっかく気持ちよく眠っているのに、起こすのは悪い気がしてたので2人はそのままにしておくことにした。
「それにしてもヤコブ達が戻ってこないわ…何かあったのかしら…」
洞窟の中でじっと待っているものの、不安な気持ちが拭いきれない。
「確かに…少し遅いな…。様子を見に行くか。姫さんはここで待っていてくれ」
「いいえ、私も行くわ」
スヴェンの言葉に私は首を振った。
「本気で言ってるのか?!絶対にアイツラに何かあったに決まってるんだ!行けば危険にきまっているだろう?!」
「だけど、スヴェン。もし彼等に何かあったら私達はもう終わりよ。『エデル』の人々しか道を知らないのよ?」
私が下げているメッセンジャーバッグの中は【聖水】の他に、今朝トマスから託された【エリクサー】の瓶が1瓶入っている。
万一の為にトマスが私に預けてきたのだ。もし彼等が何者かに襲われ、大怪我を追っていたとしても、これさえあれば助けることが出来る。
それだけは…絶対に避けたかった。
「た、確かにそうかも知れないが…」
「お願い、スヴェン。私も一緒に様子を見に行かせて?貴方は強いのでしょう?」
それに…もし仮に、全員が私の敵で…待ち伏せをしていたらスヴェンが危険だ。
彼1人を犠牲に等させるわけにはいかない。
私の言葉に決心したのか、スヴェンは頷いた。
「ああ!大丈夫だ。姫さんは俺が必ず守る。よし、行くか!」
「ええ」
そして私とスヴェンは彼の馬に一緒に乗って、悲鳴が聞こえた場所へ向った―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます