第1章 61 死の大地
『クリーク』の町を出て、2時間―
ガラガラガラガラ…
馬車は長年続く干ばつにより、ひび割れてしまった悪路が続く大地を走っていた。
「王女様…今迄こんなに乗り心地の悪い馬車で旅を続けられていたのですか…?」
ガタガタと揺れる馬車の中、向かい側に座ったトマスが顔色を青ざめさせながら私に尋ねてきた。
「ええ、そうよ。でも今迄走ってきた場所はここみたいに足元が悪い道じゃ無かったから、こんなに酷くは揺れなかったけど」
「確かにそうですね。ここまで酷い揺れはありませんでした。下手に話をすると舌を噛みそうですよ。これなら馬の上に乗ってる方がマシかもしれませんね」
リーシャは顔をしかめながら窓の外を見た。
相変わらず馬車に乗る兵士たちに緊張感は感じられない。
…本当にユダが懸念する通り、敵がいるのだろうか…?
するとその時、馬車の後方で馬にまたがっていたユダと目があった。
しかし、何故かユダはパッと目をそらせてしまう。
まただ。
昨夜からユダの様子がおかしい。いつもなら出発する際、声を掛けてくるのはユダだったのだが、今朝に限ってはヤコブが声を掛けてきたのだ。
一体ユダはどうしてしまったのだろう?
それとも…本当彼が私を裏切る者なのだろうか?それで…やましく感じて私から遠ざかっている…?
「クラウディア様、どうされましたか?」
突然リーシャが声を掛けてきた。
「え?何が?」
「いえ…先程からいつもと様子が違うように見えましたので…もしかして気分が悪いのですか?」
「い、いえ。別にそういうわけでは…」
しかしリーシャは首を振った。
「そうですよね?この辺りはあまりにも悪路です。トマスさんも限界みたいですし…休憩を取ってもらうように言いましょう」
「でも、ここは休憩する場所なんて無いわよ」
窓の外から様子を伺ってもどこまでも乾いた荒野が広がっている大地には、ところどころ巨大な岩が点在するのみで、馬車を止めて休めるような場所はどこにも見当たらない。
「確かにそうですよね…」
リーシャはため息を付いた。
『クリーク』から次の村『シセル』に行くには【死の大地】と呼ばれるこの場所を通らなければならない。
この辺り一帯は不思議な場所で、1年を通して雨が降ることはほとんどない。当然水脈等あるはずもなく…大地は干からびている。その為、大量の水を持って移動しなければ当然通り抜けることは不可能な場所だ。
現に私達も2台の荷馬車の中に樽に入った大量の水が積まれていた。
恐らく、あれだけの水があれば余裕で【死の大地】を通り抜けることが出来るだろう。
(あのときは…本当に水で苦労したわ…)
回帰前は『クリーク』の町で私が失態を犯したせいで、まるで逃げるようにあの町を去っていった。その為に本来であれば『クリーク』で十分に水を補給して出発する予定だったのに、それが出来なくなってしまったのだ。
私達は十分な水も持たないまま出立し…水不足により、命からがら何とかこの場所を通り抜けることが出来た。けれど私は『エデル』の使者たちから激しい憎悪を向けられるようになってしまった…。
不意に、馬車酔いで青ざめていたトマスが口を開いた。
「そう言えば…伝承によれば、この【死の大地】も大昔は雨の恵みによって栄えた町がかつては存在していたらしいですよ」
「そうだったんですか?知っていましたか?クラウディア様」
「いいえ、知らなかったわ。でも、ここも…『レノスト』王国の領地なのよね…」
「そうですよね。人なんか住めない場所ですけど…」
リーシャが頷く。
「うう…それにしても辛い…出来れば少し休ませてもらいたいです…」
トマスが真っ青になっている。
「だ、大丈夫?!どこか休める場所は…」
私は窓から身を乗り出した。
すると、突然馬にまたがったユダが駆け寄ってきた。
「何をなさっているのです!クラウディア様っ!身を乗り出したら危ないではありませんかっ!」
「あ…ユダ…実はトマスが馬車酔いを起こしたので、どこか休める場所は無いかと思って探そうと思ったのよ」
「何だ…そういうことだったのですか…だったら…」
ユダは辺りをキョロキョロ見渡し…ある一点に目を止めた。
「いい場所が見つかりました。お任せ下さい」
ユダ馬車から離れると大声を上げた。
「皆っ!あの前方の巨大岩には洞窟がある!あの場所で少し休憩を取ろう!」
当然…ユダの言葉に反対する者は誰もいなかった―。
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