第1章 40 『クリーク』の人々

 野戦病院に到着し、扉を開けて驚いた。


まだ夜明け前に関わらず、そこにいた全員が立ち上がって整列し、こちらをじっと見つめていたのだ。


そして整列した人々の中心に立っていた人物は町長と眼鏡の青年だった。


「え…?一体これは何…?」


戸惑っていると、隣に立つトマスが声を掛けてきた。


「ここにいる人々は全員王女様が持ってきてくださった薬のお陰で怪我から回復した者達なのです」


「そうだったの…」


すると、町長が前に進み出てきた。


「王女様、貴女様は私達の命の恩人です。この中にいる者達の中には酷い怪我のせいで意識が戻らず…ただ死を待つ者達も大勢いました。ですが王女様のお陰でここにいる全ての怪我人が救われたのです。本当に…ありがとうございます。そして、我等を見捨てたのだと勝手に決めつけ、王女様に大変失礼な事を申し上げてしまったこと…。お詫びのしようがありません。本当に…大変申し訳ございませんでした!」


町長は私に頭を下げてきた。

そんな町長に私は声を掛けた。


「そんな、頭を上げて下さい。お礼なんていいのです。領民を助けるのは、当然のことなのですから」


「ですが、王女様に対しての非礼は許されるものではありません。どのような罰も受ける覚悟でございます!」


メガネの青年が訴えてくる。


「罰も与える気は一切ありません。むしろお詫びをしなければならないのは私の方です。助けに来るのが遅くなってしまったばかりに、命を落としてしまった方々も大勢いたはずですから…」


その事を思うと、申し訳ない気持ちで一杯だ。


「いいえ、死んでいった者達は…本当に怪我の状態が酷く…とても助かる命ではありませんでした。そのことで責めてしまったこと…本当に申し訳なく思っております」


傍らに立つトマスが再び謝罪してきた。


「でも、皆さん…怪我が治って、本当に良かったです。そして、ここへ来るのが遅くなってしまったこと改めてお詫び申し上げます」


私は頭を下げた。


「王女様!どうか頭を上げて下さい!」


町長の言葉に顔を上げると、今度は人々から一斉に声が上がった。



「王女様は我等の命の恩人ですっ!」


「これからは国ではなく、王女様に命を捧げます!」


「何かあれば、我等が一丸となって王女様をお守り致します!」


「王女様は我等の聖女だっ!」



彼等は皆笑顔で口々に私に訴えてくる。


「え…?」


回帰前…私はこの町の人々から罵声を浴びせられ、武器で威嚇され…命の危機まで感じる程の目に遭わされたのに…この違いはどうだろう。


こんなに暖かい言葉で町の人々に受け入れてもらえるなんて…私はとても幸せだ。


「皆さん…。あ、ありがとうございます…」


思わず感動し、涙が滲みそうになった時…。


「あの…これで良ければお使い下さい…」


隣に立つトマスが恥ずかしそうに真っ白なハンカチを差し出してきた、


「トマス…」


「ご安心下さい。未使用の上…洗濯済みですから」


「ありがとう、トマス」


トマスからハンカチを受け取り、私は涙を押さえた。


そんな私を人々は笑顔で拍手し続け…温かい眼差しで見守ってくれていた―。






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