第1章 41 夜明けと共に

 午前5時― 


野戦病院で簡単な非常食を頂いた私達は、徹夜で疲れた体を休める為に町長に案内されて野戦病院からほど近い2階建ての宿屋へ案内されていた。


町長の話では、この宿屋は今は戦争の影響で廃業になってしまっているらしい。




「どうぞ王女様とメイドの方はこちらのお部屋をお使い下さい。お付きの人達は隣の個室をご用意致しました。皆様徹夜されてお疲れでしょうから、どうぞごゆっくりお休み下さい」


私とリーシャが案内されたのは2人部屋で、スヴェンとユダ達は隣の個室をそれぞれあてがわれることになった。


部屋には木製ベッドが2つ、丸テーブルに椅子が2脚置かれていた。


「まぁ、床も壁も天井まで全て木で出来ているわ」


部屋に入った途端、リーシャは口にした。


「申し訳ございません。もっと良い部屋をご用意できれば良かったのですが…何しろ戦争によって建物がかなり消失してしまったものですから」


町長は申し訳無さそうに頭を下げてきた。


「いいえ、別におかしな意味で言ったわけではありません。部屋全体が木の香りで満ちていて落ち着いてるのでゆっくり休めそうです。こんな素敵な部屋を用意して頂き、ありがとうございます」


私は笑みを浮かべてお礼を述べた。


するとすぐ側で話を聞いていたスヴェンも頷く。


「うん、俺もこの部屋が気に入ったよ。やっぱり木に囲まれていると落ち着くよな」


私とスヴェンの言葉に気を良くしたのか、町長は笑みを浮かべて話を再開した。


「そうおっしゃっていただけると嬉しいです。部屋は質素かも知れませんが、この宿屋の裏手には温泉が湧いているのです。是非、お入りになって下さい。お身体の疲れが取れますよ」


「温泉ですってっ!聞きましたか?クラウディア様っ!」


ずっとお湯に浸かることを望んでいたリーシャは余程嬉しかったのか手を叩いた。


「え?ええ。そうね。温泉に入れるのは嬉しいわ」


私はリーシャに同意した。


「それでは残りの皆様はお隣の大部屋に案内させて頂きます」


町長が男性陣に声を掛け…隣の部屋へ移動しようとした時…。


「町長」


それまでずっと沈黙を守っていたユダが声を掛けた。


「はい、何でしょう?」


「クラウディア様とメイドの部屋は分けてくれ。見たところ、部屋はまだ余っているだろう?」


「えっ?!」


驚きの声を上げたのはリーシャだった。


「な、何故ですか?私はクラウディア様の…」


「ただのメイドだろう?第一普通に考えてみれば一国の王女がメイドと同じ部屋に寝泊まりするのはおかしな話だ」


ユダは明らかに私とリーシャが同室になるのを避けようとしている。ユダは…完全にリーシャを疑っている。


「ですが、『アムル』の村では私とクラウディア様は同じ家に宿泊させていただきましたよ?そうですよね?スヴェンさん」


リーシャは私と余程離れたくないのか、ユダに訴え…そして視線をスヴェンに送る。


「あ…そう言えば、あの時はそんな事気付かずに姫さんとリーシャを同じ…俺の家に泊めてしまったけど…それってまずかったのか?」


スヴェンが困った顔で私を見た。


私は…。


すると、私より先にユダが口を開いた。


「あの時は他に泊まる場所が無かったからだろう?現に我々は教会に泊まった。だが、ここはどうだ?宿屋のうえ、部屋だって余っているのだ。我々だって今回はそれぞれ個室に泊まるのだからな。クラウディア様達もそうすべきだ」


「そうですね。女性同士なので同室が良いかと思いましたが…ではメイドの方はお隣の個室へどうぞ」


町長が笑みを浮かべながらリーシャに声を掛けた。


「あ…は、はい。分かりました。では私はお隣の部屋を使わせていただきますね」


「ええ。分かったわ」


私は当たり障りのない返事をした。


「では、王女様はこちらの部屋をお使い下さい。残りの方々は私についてきて下さい」


全員は頷き、町長に連れられて各自の部屋に向かい…ようやく私は1人になった。



**


「ふぅ…今回は流石に疲れたわ…」


ベッドに横たわると、天井を眺めた。

窓からは夜明けの光が明るく差し込んでいる。


そしてふと、リーシャの事が頭によぎった。


「リーシャ…」


貴女は私の味方なの?


一体私のバッグから…何を探そうとしていたのだろう?


「私は…今まで通りリーシャに接するべきなのかしら…」


ポツリと疑問を口にした時…。


コンコン


扉がノックされる音が聞こえた。


「誰かしら?」


立ち上がって扉の前に立つと、声を掛けた。


「誰?」


すると…。


「クラウディア様、私です。リーシャです」


「え?リーシャ?」


すぐに扉を開けると、そこには満面の笑みを称えたリーシャが立っていた―。






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