第1章 19 扉を叩く者
「え?!今のは一体何でしょう?!」
リーシャが、目を見開く。
「ええ、そうね…。様子が気になるわ。見に行って来ようかしら」
扉に向かおうとすると、背後からリーシャが引き止めてきた。
「駄目ですっ!クラウディア様っ!」
「どうしたの?」
振り向くと、リーシャが首をブルブルと振った。
「駄目です、クラウディア様。外は危険です。きっと何かあったに決まっています。ど、どうしても気になるというのであれば…わ、私が代わりに様子を…」
ガタガタ震えながらリーシャが私を見る。
そこで私はクスリと笑い、リーシャの頭を撫でた。
「大丈夫よ。リーシャ、安心して。この『アムル』の村には頼もしい自警団がいるのだから彼等に任せましょう?」
「え、ええ。そうですよね?自警団の人達がいるのですからね?」
本来であれば『エデル』の使いの者たちが、何かあれば私達を守る為にこの家に駆けつけて来るのだろうが…そんなものは当てにしていない。
と言うか、逆に騒ぎの原因は恐らく…。
その時―。
ドンドンッ!
『姫様、俺だ。スヴェンだ、開けてもいいか?!』
外から激しく扉を叩く音と、スヴェンの切羽詰まった声が聞こえてきた。
「ええ、どうぞ。と言うか、ここは貴方の家なのだから自由に入って来ていいのよ」
声を掛けると、すぐにガチャッと扉が開かれてスヴェンが家の中に入って来た。
スヴェンの髪は乱れ、息も荒れていた。
「どうしたの?スヴェン」
首を傾げてスヴェンを見た。
「姫様…実は村の見張りも兼ねて、姫様の馬車も俺たちが見張っていたんだよ。そしたら不審人物達が馬車に現れたんだ」
「不審人物…?」
「ああ、そうだ。おい!お前たち、そいつらを連れて来い!」
スヴェンが戸口を振り返った。
すると、3人の村の若者達が家の中に入ってきた。彼等はロープで両手を縛られた2人の『エデル』の使いの者達を連れている。
その内の1人は目つきの悪い、いつもの兵士だ。
その兵士は私と目が合うと、じろりと睨みつけてきた。
「あら、彼等は『エデル』の使者たちじゃない?一体どうしたの?」
私はわざとのんびりした口調でスヴェンに尋ねた。
「どうしたもこうしたもない、聞いてくれ。姫様」
スヴェンの言葉の後に、別の若者が続けた。
「実は俺たち教会で見張りをしていたんです。そしたら、こいつらがコソコソと教会の裏口から出ていく姿を見つけて、後を付けたんです。
更に別の若者が早口で訴える。
「そうしたら、こいつら、教会の裏口に立てかけておいた松明を盗んで、姫様の馬車に近付いて行き…幌に火をつけようとしたんですっ!」
「何ですってっ?!」
リーシャが悲鳴を上げる。
スヴェンは憎々しげに『エデル』の兵士と使者を睨みつけるが…私はある程度予想はしていた。
ひょっとすると彼等は私の荷物を乗せた馬車に目をつけるのではないかと…。
「どうする?姫様。コイツラ…とんでもない奴らだ。何しろ姫様の荷物を乗せた馬車を燃やそうとしたんだからな?どんな罰を与えるんだ?」
スヴェンは今にも殴り掛かりそうな怒気を含んだ声で縛られた2人を睨みつけた。
だから私は言った。
「ああ、そのことね?別にいいのよ?だって私がそこの2人に頼んだのだから」
その言葉に全員が驚いた様子で一斉に私を振り返った―。
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