第1章 18 響き渡る声
その夜―
私とリーシャはドーラさんの計らいで、彼女の家に泊めてもらうことになった。
そして『エデル』の使者と兵士たちは教会で1晩を過ごすことに決定した。
「それでは姫様。狭苦しい家ではありますが、ごゆっくりお休み下さい」
教会へ行く為にカンテラを手にしたドーラさんが玄関先で私に挨拶をしてきた。
「ありがとうございます。でも家主のドーラさんを家から追い出すような羽目になってしまって…申し訳ありません」
「本当にありがとうございます」
私の謝罪の後、リーシャも頭を下げた。
するとそこへスヴェンがドーラさんを迎えに現れた。
「婆ちゃん、準備出来たか?それじゃ教会へ行こう」
スヴェンもカンテラを手にしている。
「ごめんなさい、スヴェンもこの家に住んでいるのよね?それなのに私とリーシャを泊める為に教会に行かせてしまって」
迎えに来たスヴェンにも謝った。
「何言ってるんだい?確かに俺はここに住んでいるけど、戦争が始まってからはずっと教会に住んでいるんだよ。ここで他の自警団の仲間と村人たちをまもって暮らしていたからな。でも…その生活もそろそろ終わりかな?何しろ姫さんが『エデル』に嫁げばこの村も領土になって、姫さんが管理してくれるんだろう?」
スヴェンがウインクしながら尋ねてきた。
「ええ、そうよ」
「こら!姫さんに何て態度取るんだい?!」
ドーラさんがスヴェンを睨みつけた。
「いいんですよ、ドーラさん。スヴェンと私はもう友達ですから」
笑いながらスヴェンを見た。
「ええ!と、友達っ?!」
「クラウディア様とスヴェンさんがっ?!」
スヴェンとリーシャが同時に驚きの声を上げた。
「ええ、勿論リーシャも私の大切な友達だから」
ドーラさんも私の言葉に目を見開いていたが…。
「アッハッハッ!こいつはいいや!」
スヴェンがいきなり声を上げて笑った。
「ス、スヴェン?!どうしたの?!」
「スヴェンさん?」
私とリーシャは驚きの声を上げた。
「い、いや…ま、まさか王族のお偉い人が…平民の俺を友達だなんて言うなんて…お、おかしくってさ…」
スヴェンはお腹を抱えて笑いを堪えている。
「そうかしら…?」
でも考えてみれば、回帰前の私だったら絶対にこのような考えには至らなかったかもしれない。断罪されて処刑され…日本人として生まれ変わっていなければ今のような自分に生まれ変われなかったかも知れない。
「ほら、ほら、スヴェン。いつまで笑っているんだい。姫様たちが休めないだろう?さっさと教会へ行くよ」
ドーラさんがスヴェンの背中をグイッと押した。
「あ、ああ。分かったよ。それじゃ姫さん、リーシャ。狭苦しい家だけどゆっくり休んでくれよ」
「ええ、お休み下さい」
スヴェンとドーラさんが交互に挨拶をしてきた。
「ええ。お休みなさい、スヴェン。ドーラさん」
「お休みなさい」
私とリーシャも2人に挨拶を返し…扉はパタンと閉じられた。
「…さて、リーシャ。明日は出発が早いわ。馬車酔しない為に早く寝ましょうか?」
扉が閉じられると、背後にいるリーシャを振り返った。
「ええ、そうですね…。全くあんな質の悪い馬車を輿入れの乗り物として寄越すなんて…『エデル』の新国王はひどい男ですね…あ!す、すみませんっ!」
突然、リーシャが謝ってきた。
「リーシャ?何故謝るの?」
「え…そ、それは…仮にもクラウディア様が嫁ぐお相手の方の文句を言ってしまって…」
申し訳無さげにリーシャが俯く。
「いいのよ。だって本当のことだもの。何も気にしないでいいのよ?」
「ええ?!い、いいんですか?!そんな事言っても!」
リーシャが目を見開いた。
「いいのよ、どうせ愛の無い結婚だし…それに…」
「それに…何ですか?」
私はじっとリーシャを見つめた。
…もし、私が数年後はアルベルトと離婚するつもりだと言えば…リーシャはどんな顔をするだろう?
「…姫様?」
「あ、あのね…リーシャ…」
その時…。
「こらーっ!!お前らっ!何やってるんだっ!!」
外で突然大きな声が響き渡った―。
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