第1章 17 感情を露わにする兵士
その時、突然背後から声を掛けられた。
「クラウディア様、そろそろ出発しましょう」
振り向くと、そこに立っていたの目つきの悪い兵士だった。
「何だって?今から出発するっていうのかい?もう日が暮れるし、この先は森を通り抜けることになる。その森には狼どもが生息しているんだよ?ここに1泊していけばいいじゃないか!」
ドーラさんが驚きの声をあげた。
「ああ、そうだ。あの森にすむ棲む狼どもは夜に活発に動き回る。そんな中、森を通り抜けるなんて正気じゃない。それともまさか…姫様と侍女を危険な目に遭わせようとしているのか?」
またしてもスヴェンは挑発的な事を言う。
「な、何だとっ!貴様…また我々を愚弄する気かっ?!ただの平民のくせに…っ!」
兵士は憎々し気にスヴェンを睨みつける。
**
そう、スヴェンの言う通りだ。
恐らく彼らはわざと夜の森を馬車で走り、私たちを怖がらせようとしているのだ。
現に回帰前、私とリーシャを乗せた馬車は狼の群れに追われ…危険な目に遭った。
最終的に、兵士たちが手にしていた銃で威嚇して狼たちを追い払ったのだ。
彼らは最初からいつでも狼を追い払うことが出来たのに、私とリーシャを恐怖に陥れる為だけに嫌がらせをした。
そして『エデル』の使者たちは怯える私とリーシャを見てあざ笑っていたのだ。
本当に、あの時は最低な輿入れの旅だったが…それは回帰前の事。
私はもう二度と、醜態は晒さないと決めたのだから―。
**
私が過去の回想をしているその間も、スヴェンと兵士の口論は続いていた。
「愚弄も何もない、森には野生の狼が生息している。夜の森がどれほど危険か、仮にも一応兵士の端くれならそれくらいのこと分るだろう?」
「何っ!誰が端くれだっ!」
「あんたのことに決まっている」
「おのれ…何て生意気な…っ!」
このままではらちが明かない。
ドーラさんもリーシャも困った様子で2人の口論を見つめているし…そろそろ終わらせた方が良さそうだ。
そこで私はスヴェンに声を掛けた。
「待って、スヴェン。彼はこの村はまだ復興途中で大変な時なのに、私たちが滞在して迷惑をかけてはいけないと気を利かせて言ってくれてるのよ。何しろ、総勢13人もいるのだから。ね?そうでしょう?」
そして兵士の方を振り向いた。
「え、え…ええ。その通りですよ。クラウディア様の仰る通りです。何しろ総勢13人という大人数ですからね。ご迷惑をかけてしまうでしょう?」
少しだけひきつったような笑みを浮かべながら兵士は返事をする。
本当になんて単純な男なのだろう。
自分の感情がすぐ顔に出てしまうことに気付いていないのだろうか?
大体13人という人数のどこが大人数なのか、聞いて呆れる。
するとドーラさんがニヤリと笑った。
「おや?この村も随分と見くびられたものですな?たった13人位、この村に1泊していただいたところで、どうってことありませんけど?」
「な、何だと…っ!」
兵士の顔が怒りの為か、赤くなる。
「な、なら!そこまで言うなら一晩この村に泊めて頂くことにしよう!」
兵士は声高らかに叫び、それを耳にした『エデル』からきた他の使者達が驚きの表情でこちらを見ている。
どうやら『アムル』の村に宿泊する計画は彼らには初めから無かったようだ。
やはり…夜の森を通り、私とリーシャに嫌がらせをしようとしていたに違いない。
そこで私は兵士の気が変わらないうちに、ドーラさんとスヴェンに向き直った。
「それでは今夜1晩、この村に泊めて下さい。お願いします」
「よろしくお願いします」
私に続き、リーシャが頭を下げた。
「…よろしく…頼む…」
兵士は横柄な態度で頭を下げた。その様子から明らかに不本意ながら礼を述べたと言う事が手に取るように分かってしまった。
「ああ、勿論だよ」
「たった13人くらい、どうってことないさ」
ドーラさんは頷き、スヴェンは嫌味を込めるのを忘れない。
「く…っ!」
兵士は下唇を悔しそうに噛んだ。
こうして私とリーシャは夜の森を通り抜けるという危険を回避することが出来た。
そして、その夜…ちょっとした事件が村で起こる―。
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