第1章 16 資金援助の提案

 『アムル』の村でささやかなもてなしを受けたときには、日は大分傾きかけていた。


私とリーシャは村長のドーラさんとスヴェンと一緒にお茶を飲みながら、今後の村の援助のことについて話をしていた。


「私が村に運んできた食料は恐らく持っても一月程だと思うのです」


私の言葉にドーラさんは神妙な顔で頷いた。


「ええ、姫様の運んで頂いた残りの食材は保存庫に移動させましたが…恐らくはそれ位しか持たないでしょうね」


「何とかなるだろう?戦争も終わったことだし…後一月も持つなら、村の復興をしながら食料の確保を…」


スヴェンが言いかけると、ドーラさんが口を挟んできた。


「スヴェン…本気で何とかなると思っているのかい?」


「う、そ、それは…」


スヴェンはチラリと私を見た。恐らく私に気を使ってそのような言い方をしたのだろう。

だから私はあえて言葉にした。


「恐らく村人たちだけでは到底解決できないと思います。ですから、私に援助させて下さい」


「え?!姫様。何を言ってるんだよ?!」


「クラウディア様、そんなこと可能なのですか?!」


スヴェンとリーシャが驚きの声を上げる。その一方、ドーラさんは真剣な表情で私に尋ねてきた。


「姫様…それはどういうことですか?」


「ええ、詳しくお話致します」


大丈夫、恐らくこの世界は回帰前と状況は変わっていないだろう。私は一度呼吸を整えると説明を始めた。


「この国は『エデル』と戦い、敗戦したことで『エデル』の国の属国となりました。

その証として、私はかつての敵国に嫁ぐことが決まったのです。もう決して盾突くことが無いように…いわば人質のようなものです」


「ええ、その通りです…お気の毒なクラウディア様…」


リーシャがポツリと言う。


「「…」」


ドーラさんとスヴェンは黙って私の話を聞いているけれども、その眼には同情が宿っているように感じられる。


「『レノスト』王国が『エデル』の属国となったと言う事は、この村は『エデル』の領土になったと言う事になります。そこで私は国王に新たな領民となった『アムル』の村に資金援助をして頂くようお願いしてみます」


「「何だってっ?!」」


私の話にドーラさんとスヴェンは驚いた。


「そんな無茶ですよっ!あの国王がクラウディア様の願いを聞き入れるとは到底思えませんっ!逆にクラウディア様の御身が危険にさらされますっ!どうか考え直してくださいっ!」


リーシャは私に懇願してきた。


「そうだ、リーシャの言う通りだ。これからは自分たちのことは自分たちで何とかするから、どうか姫様は危ない真似はしないでくれっ!」


スヴェンも訴えてくる。


「大丈夫、そんな心配しないで?必ず国王は訴えを聞き入れてくれるはずだから」




何故、私がここまで言い切れるかと言うと…それは確信があったからだ。


 回帰前、アルベルトは私に領民の予算の管理を任せてきたのだ。その任された村と言うのは3か所で、かつては『レノスト』王国の領民達だった『アムル』の村も当然含まれていた。


渡す公金は全て自由にしてよいと言われた当時の私は本当に愚かだった。

何故ならアルベルトが任せてくれた予算を、私は全て自分の欲を満たす為だけに使いつくし…アルベルトに1人の女として振り向いて欲しいあまりに、自分を着飾る為だけに使いつくしてしまった。


そして数年後…私は公金を横領した罪で訴えられ…その後もこじつけとも思われるような罪を次から次へと増やされ…ついには断頭台で命を散らせる結果になってしまったのだから。


でも、今度は大丈夫。

もうあの時のような愚かな私では無いし、質素に生きる暮らしは前回の生で体験済みだ。なので今の私には贅沢をする気は微塵も無いのだから。


「大丈夫。皆…私を信じて頂戴?」


私は3人の顔を見渡し、笑みを浮かべた。



そう…。


私がこの世界で生き延びるには『アムル』の村と、この後に訪れる町と村を救わなければ、自分の命を救うことが出来ないのだから―。




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