第1章 12 村の事情
教会の前では大勢の村人たちが集まり、早速料理の準備を始めていた。
『アムル』の教会の前には石で積まれた竈に、調理台、そして井戸が掘られていた。
「すごい、教会の外で料理が出来る設備が整っていたんですね」
料理をする為に調理台に集まっている女性たちの傍に近づくと声を掛けた。
「ええ、そうなんですよ。この教会ではよく炊き出しをして生活に困窮している村人たちに振舞っていたんです」
「村長のドーラさんの提案だったんですよ」
女性たちは笑顔で教えてくれた。
「ドーラさんはとても立派な人なんですね。そう思わない、リーシャ」
隣に立つリーシャに声を掛けた。
「ええ、本当に立派な方ですね」
リーシャが同意して頷いた時、背後でドーラさんの声が聞こえた。
「お姫様にそんな風に言ってもらえると光栄ですね」
振り向くと、そこには鍋を運んできたドーラさんがいた。
「この村は小さな集落でね、私たちは身を寄せ合って家畜を育てて日々の生活を送っていたんですよ。ところが戦争が始まってからは食糧や家畜を奪われるだけでなく、戦火で家々も焼かれ…多くの村民たちが他の場所に疎開していって、今では50名程しか残っていなんです。人の数は減ってもわずかに残っていた食料の備蓄品は減っていき、今では1日1度の食事しか口に入れることが出来なくなっていたんですよ」
ドーラさんはため息をついた。
「…そうだったのですね…」
私は胸を痛めながらドーラさんの話を聞いていた。
そう。
本当は…回帰前の私はその事実を知っていた。なのに自分には関係ない話だと思い、見て見ぬふりをしていたのだ。
私のそんな行動が、人々の反感と怒りを買い…最終的に断頭台で命を散らす結果になってしまったのだ。
もしも私が困っている領民達の為に手を差しのべていれば、アルベルトや『聖なる乙女』と呼ばれるカチュアの陰謀にはまっても…処刑されるまでには至らなかったかもしれない。
今回は…食糧問題を解決してあげないと。
今の私にはそれが出来るのだから。
「本当に…今まで申し訳ありませんでした」
ドーラさんや料理を作っている女性たちに改めて頭を下げた。
「な、何をされてるんですか!私たちに頭なんて下げなくて大丈夫ですよ!」
「ええ、そうです。お姫様は私たちの為に自ら食料を運んでくださったのですから」
私が頭を下げたことで、女性たちは慌てて首を振った。
「ええ、本当にこの者達の言う通りですよ。大体これから姫様は人質妻として嫁がされると言うのに。その道中に私たちの事を気にかけて、立ち寄ってくださったのですから感謝しかありませんよ。本当に…ありがとうございます」
深々と頭を下げるドーラさんの姿が何となく、前世の自分の母親とかぶってしまった。
お母さん…。
思わず母を思い出し、胸が熱くなって目をこすった。
「え…?クラウディア様。もしかして泣いてるのですか?」
リーシャが驚いた様子で声を掛けてきた。
「え?ええ。ちょっと…色々考えてしまってね…」
すると、周囲にいた村人たちが騒めいた。
「姫様…そこまで我々の事を思ってくださったんですね…?」
「何て心優しい姫様なのでしょう!」
「俺たちは姫様についていきますっ!」
そして次々と村民たちは私を称え始め…気づけば私は『アムル』の村人たちから絶大な支持を得ることに成功していたのだ―。
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