第1章 11 『アムル』の村と和解
「おい、姫さん。本当にこの中に入っているのは…あんたのドレスや宝石の類じゃないっていうのか?」
スヴェンが疑わし気な目で私を見た。
「ええ、そうです」
その言葉に彼の周囲にいた村人たちが一斉にざわめいた。村人たちだけではない。『エデル』の使者と兵士たちも驚いた様子で私を見ていた。
けれど、彼らが驚くのは無理もない。
何しろ村人たちの足元に置かれたのは全て衣類を収納する為のチェストやジュエリーボックスだからである。
『エデル』の者達の目を誤魔化す為に、敢えて私はこれらの箱の中に村人達に配る食料をいれたのである。
勿論匂いが外に漏れない工夫も怠らなかった。
「さぁ、皆さん。箱の中を開けてみて下さい!」
私の言葉に村人たちはこぞって次々と箱の蓋を開けていき、あちこちで歓声が湧き上がった。
「すごい!これは干し肉だ!」
「こっちには小麦粉が入ってるわ!」
「干し魚まであるぞ!」
「野菜の酢漬けまである!」
「あ!これは…ハーブだ!」
「ドライフルーツにナッツよ!」
私が運んできた食料を開けて喜ぶ村人たち。
そんな様子を見ていたリーシャが私に小声でささやいた。
「良かったですね、クラウディア様。村人たちのあの嬉しそうな様子をご覧下さい。それに引き換え…見て下さいよ、あそこにいる『エデル』の者たちを」
大喜びする『アムル』の村人たちとは正反対に、『エデル』の使者たちは面白くなさそうに様子を見ている。
中でも格別なのが、馬車を降りるときに私に声を掛けてきた兵士である。
彼は明らかに憎悪のこもった目で私を睨みつけていた。
「ええ、そうね。あの人たちは私がこの村で窮地に立たされる様を見たかったのでしょうけど、当てが外れたのでかなり苛立っているかもね」
「何だか彼らの鼻を明かしたみたいで気分がいいですよ」
この『アムル』の村へ到着するまでは苛立ったり、不安げだった様子のリーシャは今はすっかり上機嫌になっている。
「ええ、私も気分がいいわ」
そこへ、スヴェンと先ほどの老女が私たちの元へやってきた。
「どうやら姫様の話は本当だったようだね?私はこの『アムル』の村の村長のドーラと言う者です。そしてこっちにいるのは孫のスヴェン。この村の自警団の団長を務めています」
するとスヴェンが私の前にやってくると突然頭を下げてきた。
「姫様、さっきは失礼な態度を取ってしまってすまなかった。この村は戦争に巻き込まれて食料も全て奪われてしまったんだ。そこで食糧援助を頼むと何度も手紙で申し出たのに、一向に国からは食糧援助がもらえずに村人は皆飢えていた。もう駄目かと思っていた矢先に…まさか姫様が直々に村に食料を届けてくれるとは思わなかったよ。本当にありがとう。姫様はこの村の恩人だ」
先ほどの高圧的な態度とは打って変わって、スヴェンは柔らかな笑みを浮かべている。
「いいのよ、今まで手を差し伸べることが出来なくてごめんなさい。色々…城では大変なことがあったから」
すると、そこへ村人たちが声を掛けてきた。
「村長!早速お姫様から届けられた食材で料理を作ることにしたんです!」
「一緒に準備しませんか!」
「ああ!そうだね!今行くよ!」
ドーラさんは大声で返事をすると、私を見た。
「姫様…これから村人総出で料理を作るので、もしよければ我々と一緒に食事をしませんか?」
「ああ、そうだな。それがいい。姫様、あんたは俺たちの恩人だ。是非もてなしをさせてくれよ。もちろん、そこのお供も一緒だ」
スヴェンの言葉に私とリーシャは2人で顔を見合わせた。
「クラウディア様…」
「リーシャ」
そしてドーラさんとスヴェンを振り向き、私たちは笑顔で声を揃えた。
「「はい、喜んで!」」
と―。
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