第1章 10 『アムル』の村での贖罪
私の言葉にその場が一瞬で静まり返った。
『アムル』の村人たちは明らかに不審な目を私に向けてくるし、『エデル』の使者と兵士たちは唖然とした表情を浮かべている。
「クラウディア様…贖罪って…」
背後に立っているリーシャが怯えた様子で私に声を掛けてきたその時―。
「へ~…面白いじゃないか、姫さん。一体俺たちにどんな贖罪をしてくれるって言うんだい?」
回帰前には見たことが無い、黒髪に青みがかかった若者が前に進み出てきた。
「スヴェン」
この村の長老と思しき女性が若者に声を掛ける。
「本当に贖罪の為にこの村に立ち寄ったって言うなら、俺たちにそれなりのことをしてくれるんだろうな?まさか姫さんともあろうものが、ただ謝罪する為に立ち寄ったなんて、ふざけたことは当然言わないよなぁ?」
スヴェンと呼ばれた若者が挑発するような目で私を見た。
「ええ、勿論です。謝罪の言葉だけではお腹は満たされませんから」
「え…?」
スヴェンの目に戸惑いの色が浮かぶ。
「それでは村の皆さん。今からあの馬車の荷物を下ろすのを手伝って頂けませんか?」
私はエデルの使者と兵士たちの真後ろにある先頭の荷馬車を指さした。
「えっ?!」
「な、何だってっ?!」
「馬車って…この馬車のことかっ?!」
驚いたのは使者と兵士たちだ。
彼らは自分たちが馬車に何を積んだのか、何も知らない。恐らく積まれた荷物は全て私のドレスやアクセサリーの類だと思っていたに違いない。
現に回帰前の私が馬車に積ませたのはドレスにアクセサリーばかりだった。
そして『アムル』の村に立ち寄った際…飢えた村人たちに馬車の荷物を荒らされ…中身が全てドレスにアクセサリーだということを知った村人たちは私に激怒したのだ。
食糧難で苦しむ我らに何もせず、贅沢品に溺れる悪女とののしられたのだから。
「おい、本当に俺たちにあの荷馬車の荷物を降ろさせようっていうのか?あの荷物は姫さんの大切な私物が入っているんじゃないのか?」
スヴェンが尋ねてきた。
「ええ、本当です。かなりの量の荷物が入っているので、皆さんで手分けして運び出してもらいたいのです」
「へぇ~…姫さん。中々面白いことを言うじゃないか?」
ニヤリと笑うスヴェン。
「そう?ありがとう。それより早く荷物を出してくれる?」
「ああ、いいぜ。つまり…あの荷馬車の荷物が俺たちへの贖罪の品ってことだろう?」
「ええ、理解が早くて助かるわ」
「よし…後から気が変わったって言うのはナシだからな?」
「勿論言う訳ないでしょう?」
そしてチラリと荷馬車の前の彼らを見ると、全員言葉を無くして呆気にとられた様子で私とスヴェンのやりとりを聞いている。
「よし!それじゃみんなっ!あいつらの背後にある荷馬車から荷物を降ろすぞっ!」
スヴェンが村人たちを振り返り、呼び掛けた。
「おおっ!」
「分かった!」
「貰えるものなら貰ってやるぜっ!」
そして彼らは一斉に荷馬車に駆け寄った。
驚いたのはエデルの使者と兵士たちだ。
「お、おい!ここにいたらヤバいぞっ!」
「早く避けるんだっ!!」
「一体あの王女は何を考えているんだ?!」
彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
そして、がら空きになった荷馬車の前に駆け寄る村人たち。
その数はいつの間にか先ほどの人数よりも倍以上に増えていた。
「おおっ!箱が沢山おいてあるぜっ!」
「よし!手分けして降ろすんだっ!」
村人たちは歓喜の声を上げながら、荷馬車の荷物を次々と運び出していく。
そしてあっという間に1台目の荷馬車の中は空っぽになり、代わりに集合した村人達の足元には私が運ばせた荷物が山積みになっていた。
「さぁ、姫さん。言われた通り荷物は運びだしたぜ?それで一体この荷物の中身は何なんだい?」
スヴェンが腰に手を当て、尋ねてきた。
「はい、その荷物の中身は全て皆様の為に用意した食事です!」
その言葉に村人たちは騒めいた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます