第1章 13 スヴェン
今、村人たちは私が持ち込んだ食材で楽しげに料理をしている。
そんな村人たちの様子を少し離れた場所で眺めながら、リーシャが私にそっと囁いた。
「クラウディア様、ご覧ください。『エデル』の使者たちの様子を」
見ると、教会から離れた場所で蚊帳の外にポツンと置かれた彼らは明らかに不機嫌な様子でこちらを睨みつけている。
「私、今ならもう分かります。あの人たちはきっとクラウディア様を陥れる為にわざとこの村に立ち寄ったのですよね?」
「ええ、そうよ。だけど、思惑通りにいかなかったからさぞかし彼等は面白くないでしょうね」
その時―
「姫様!」
スヴェンが駆け寄ってきた。
「あら、どうかしたの?」
「ああ、料理が出来上がったから2人を呼びに来たんだよ。一緒に食べようぜ」
スヴェンが笑顔を向けてくる。
「私達も頂いていいの?」
首を傾げるとスヴェンは目を見開いた。
「何言ってるんだ?当然だろう?!何しろ俺たちが久しぶりにまともな食事にありつけるのは姫様のお陰なんだから」
「そう…?」
教会からは美味しそうな匂いが漂ってきている。
「それじゃ、折角のお誘いだから…ご相伴に与ろうかしら?」
「ああ、是非そうしてくれ。ところで…」
スヴェンは馬車の前でこちらをじっと凝視しているエデルの使者たちをチラリと見た。
「あいつらはどうする?姫様を迎えに来た使いの者達なんだろう?」
「ええ、そうよ」
「一応そうですけどね」
リーシャはブスッとした様子で返事をする。
「そうなのか〜とてもそうは見えないな。あいつら、物凄い目で姫様を睨んでるぜ?大丈夫なのか?」
スヴェンが心配そうに尋ねてきた。
「ええ、多分…大丈夫でしょう?何しろあの人達は『エデル』へ嫁ぐ私の為に迎えに来た人達なのだから。私に何かあったら困るでしょう?」
「そうですよね?考えてみれば姫様に何かあれば絶対に困るのは彼等なのですから。はぁ…それを聞いて少しは安心しました」
リーシャが私の言葉に安堵のため息をついた。
「ええ。そうよ」
まぁ、恐らく命の危険にさらされない限りは見てみぬふりをするだろうけれども…。
何しろ、この後も旅の途中で立ち寄る町や村でも私は酷い目にあったけれども、彼等は見てみぬふりをして、私を窮地に追いやったのだから、用心は続けないと。
「ふ〜ん…」
私の話を聞いたスヴェンは再び『エデル』の使者たちを見た。
「何だっ?!俺たちに何か文句でもあるのっ!」
スヴェンの視線が気に入らなかったのか、ついに私に失礼な態度を取った兵士がズカズカと声を荒らげながら近づいてきた。
「いや?別に何も」
スヴェンは肩をすくめ、私に視線を移した。
「それじゃ、姫様。食事に行こうぜ、そこのあんたもさ」
「ええ」
「はい」
リーシャと同時に返事をしたその時…。
「食事…」
兵士がボソリと呟いた。
恐らく彼もお腹が空いているのだろう。
「うん?何だ?お前らもひょっとして腹が減ってるのか?」
スヴェンが挑発的に兵士を見た。
「な、何だとっ!貴様…っ!」
顔を赤らめて怒りを顕にする兵士。
しかし、スヴェンは彼を無視すると私に尋ねた。
「姫様、コイツラの食事はどうする?姫様が運んできた食材だ。俺たちは姫様の判断に委ねるぜ」
「き、貴様…!我々を愚弄するとは…!」
しかし、それでも兵士はここから立ち去ろうとしない。
恐らく食事は欲しいのだろう。
「スヴェン、この人達にも食事を分けてあげてくれる?だって、彼等のお陰で私はこの村に来ることが出来たのだから」
「え?!」
私の言葉に兵士は目を見開く。
勿論、リーシャも私の言葉に驚いたのか口をポカンと開けていた。
「ああ、分かった。それじゃあんたらも食事に来いよ。馬車の前にいる連中にも声を掛けてこいよ」
スヴェンが兵士に声を掛けた。
「…分かった…」
兵士はクルリと背を向けると、馬車の前に立っている仲間の元へ戻っていく。
するとその背中にスヴェンが声を投げかけた。
「良かったなぁ?優しい姫様に感謝しないといけないな?」
すると、兵士の肩が大き跳ね…身体をブルブル震わせながらも仲間の元へと向かって歩いて行く。
私はスヴェンの態度に呆れた。
「スヴェン…何てことを言うの?仮にも相手は兵士なのよ?もし剣でも抜かれたら…」
「そうですよ。姫様の言うとおりです」
リーシャもスヴェンを諭した。
「何、そうなっても大丈夫さ。俺は自警団の団長で、剣術が得意なんだ。あいつ…いきがってるけど多分俺より弱いな。さて、それじゃ食事に行こうぜ」
そしてスヴェンは教会に向かって歩き出した。
その後ろを私とリーシャもついて歩く。
「クラウディア様」
歩きながらリーシャが声を掛けてきた。
「何?」
「あのスヴェンて人…口は悪いし、乱暴だけど…さっきはスカッとしました。あの兵士の悔しそうな様子見ましたか?」
「そうね。私も気分が良かったわ」
確かに私もあの兵士が悔しそうにする様子は爽快だった。
「スヴェンて頼りになる人よね?」
そして私達は顔を見合わせて笑った―。
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