第4話 先生の話

「じゃあ~、今日一日先生とデートして」


「……へ?」

ちょうどお昼くらいの土曜日の喫茶店。

目の前に座る先生が、可愛い笑顔で言ったことは僕の予想とはかなり違う、お仕置きというには色々甘すぎるもので……ど、どういう事ですか?


そんな動揺している僕の姿を見て、先生は笑いながら

「あはは、岡島君顔真っ赤だよ、照れちゃってるの? 可愛いなぁ、岡島君!」


「か、からかわないでください! 照れてません、動揺してるだけです……ど、どういう事ですか、デートって!?」


「も~、素直になったらいいのに~。まぁ、デートって言うのは半分嘘だよ、ごめん岡島君の事からかった、予想通りの反応が返ってきて先生嬉しいな」


「な、なんですかそれ……やめてくださいよ、本当に」


「えへへ~、ごめんね~」

そう言いながらてへっ、と可愛く頭を小突く先生。

なんだよそれ、もう……はぁ、相変わらず先生は先生だ。


そんな僕の気も知らずに、先生は水を一口飲み続ける。

「ごめんね~、岡島君。あ、でもデートではないけど、今日は一日一緒にいてほしいってのは本当だよ!」


「……どういう事ですか?」


「ふふ~ん、今日岡島君に会いに行ったのはママ活を止めるのも目的でしたけど、それ以上にちょっと遊びに付き合ってほしかったの! 今日は土曜日ですっごく暇してたから、だれかと遊びたくて! それで岡島君に白羽の矢、ぴゅーだよ!」

矢をうつポーズをしながらものすごく楽しそうな笑顔で話す先生。

いや、その……なんで僕なんですか?


「あ、それ聞いちゃう? 聞いちゃうんだ!」


「聞くでしょ、そりゃ。だって教師と生徒ですよ、僕たち。一緒の部活で遊んでるとはいえ、さすがに生徒を誘うのはやばいでしょ」


「まぁまぁ、聞いて! 私ね、今日本当はダリアと穂乃果と一緒に遊ぶ予定だったの、本当は! あの二人と一緒に遊ぶ予定だったのね!」


「あ、仲いいですもんね」

前も言った気がするけど、ダリア先生はうちの学校の保健室の先生で美人だけどかなりの変人、先生は社会の先生でゆっくりぽわぽわ可愛い先生。

そんな二人と福田先生は確か……中学からの同級生? 高校の同級生?とかですごく仲がいい。いつも3人でご飯を食べているところを目撃されてるくらいにはかなり仲良しの先生たち……そこになんかあったんですか?


「うん、仲良し! 仲良しなんだけど、なくなったの、遊びが! 今日遊べなくなったの! 聞きたい、なんでか? 聞きたいよね、岡島君!」


「あ、まぁ……はい」

何で今日の先生こんなに推し強いんだろ、そんなやばいことあったのかな、あの二人の先生と。あんまり気にならないけど、聞かないと。


そんなことを考えていると、ぷくーっとほっぺを膨らませた先生が強めの口調で

「あのね、彼氏と遊びに行くからいけない、って断られたの!!! しかも二人ともに! ひどくない、二人とも! ねぇ!!!」


「……はぁ」

……結構ありきたりな理由でした。

彼氏と遊びに行くから、って結構と言うか一番レベルで多い理由なんじゃ……いや、まぁむかつくのはすごくわかりますけど。この前光輝にされたときちょっと怒ったし。


「彼氏がいるからってそっちと遊びやがって……友情より恋愛を取るのかー、女の友情より男のラブなのか……って聞いてる、岡島君!?」


「聞いてます聞いてます。大変ですね、先生」


「そうなの、大変なの! それにさ、ほかの友達もみんな彼氏いるし、中にはもう結婚してる子も多いし……そういうわけで私は孤独だったってわけさ。ずっと彼氏もいないしさ、私は寂しいんだよ、岡島君」

そう言って儚げな表情でブランデーでも飲むかのように水を飲む先生。

まぁ先生も26歳だし、周りは続々と恋人とか結婚とかしていくんだろうな……いや、でも。


「先生も彼氏作ればいいじゃないですか。先生美人だし可愛いし、すぐに彼氏くらい作れますよ……ちょっと子供っぽいけど」

なんやかんや言われてるけど、先生は学校でもファンが多いくらいのすっごい美人だし、これはセクハラになるから言えないけどスタイルも抜群だし。

普通にしてれば彼氏くらい余裕で作れると思うんですよ、しかもかなりの好物件の。ていうか付き合いたい人多いでしょ、先生と。


そんな僕の言葉に、一瞬ぴくっと顔を動かした先生が机に乗り出し目を輝かせながら、

「え、可愛い!? 美人!? 岡島君、私の事そんな風に思っててくれてた!? 私の事可愛いって思ってくれてたの、岡島君!?」


「あ、いや、その、それはそうですけど……ち、近いです、あと普通に怖いですし、声も大きいです……もうちょっと抑えてください」

ほんとテンション高すぎるって、今日の先生。

怖いですよ、先生……こういうところなのかな、一人の理由。


「えへへ~、そっかぁ! 岡島君、私の事そんな風に思っててくれたんだ、可愛いって……えへへ、岡島君私の事そんな目で見てくれてたんだ!」


「やめてくださいよ、そんな言い方。まぁ、本当に可愛いとは思ってますよ、お世辞じゃなくて……だけど、その感じやめてください、結構見られてますから! ていうか止める立場でしょ、生徒がこんなこと言ってたら」


「えへへ、嬉しいな、岡島君そんな事絶対に行ってくれなかったから……って、あはは、ごめんごめん。確かに止めるべきだとは思うけど、先生も女の子だから褒められると嬉しいんだよ、ありがとね岡島君!」


「は、はぁ……はい」

……まぁ、先生って隠すの多分下手だし。

割と本音で話す人だから、嬉しいのはほんとなんだろうな、公共の場ではあんまりやってほしくないけど。


「そんな可愛い私なんだけど、まぁ結構理想が高くてね! 可愛い私だけど、理想が高くて彼氏ができないのだよ、可愛いけど!」


「ちらちらどや顔でこっち見るのやめてください、ちょっとだけうざいです。ていうかそんな理想高いんですか、先生?」


「うん、結構高いし、それに壁も多い。まぁでも、全貌は内緒だよ」

くるくるっとストローを回し、それで僕をさしながらにこっといたずらに微笑む先生。まぁ、教えてくれるわけないですよね、普通に。


「でさ、そういうわけで私は可愛いのに彼氏がいないし、可愛いのに友達にも裏切られた哀れで悲しい可愛い女の子なので! ちょっと岡島君に慰めてもらおうかな~、って思ったわけ!」


「……なんでそんな結論になったんですか?」


「だってさ、岡島君優しいし、私の話結構聞いてくれるし! それに毎日部活で遊んでるから仲いいし! 優しい岡島君なら私に付き合ってくれるかな、って!」


「自分で言ってて恥ずかしくないですか、それ? 生徒ですよ、僕」

普通に危ない発言ですよ、多分。

生徒にそんなこと言わないでください、友達本当は少ないんですか、先生?


「まぁまぁ、生徒だけどさ! 顔見る機会は一番多いし! それに、岡島君も可愛いお姉さんとデートしたかったんでしょ、こんなサイトに登録するくらいだし」

にやにやそう言いながらママ活サイトの映るスマホを僕に見せてくる先生。


「……ごめんなさい、それはずるいです」


「えへへ~、図星だ! 可愛いお姉さんとデートしたかったんだったら、私で妥協しとかない? 私だって、可愛いお姉さんでしょ? 可愛くて優しくて……君の事をよく知ってるお姉さんだよ」

にっこりと笑いながら自分の顔を指さす先生。


まったくこの人はもう……

「先生じゃないですか、あなたは」


「あー、そんなこと言っていいのかなぁ!? 私にはこのママ活サイトっていう証拠があるんだよ、岡島君! 私の発言次第で君の事抹消することもできるんだよ!? 本当にそんなこと言っていいのかなぁ!?」


「よくない大人やで、ほんまに……わかりました、今日だけですよ。僕が完全に悪かったですし、その……ちょっとだけ期待してきたのは事実ですし」

罪悪感もかなり感じてはいたけど。

ただそれと同時に趣味の合いすぎるお姉さんと会えたらな、みたいな期待も……ほんと悪いな、僕。ちょっと悪すぎる人間だな、帰ったらさくらを思いっきり甘やかそう、絶対に。めちゃくちゃ甘やかそう、さくらの事を。


「ふふ~ん、やっぱりそうだ! まぁね、私だって可愛いお姉さんだから岡島君の期待にはかなり沿ってあげられる……って岡島君聞いてる? 可愛いお姉さんの私が話してるのになんか心ここにあらずじゃない!?」


「……え、あ、いや、その……ちょっとだけ、自己嫌悪です」


「大丈夫大丈夫、私は誰にも言わないから! それに男の子なら絶対にそういう時期はあるし、大丈夫! だって君は男の子だから!」


「なんなんですか、それは……本当に今日だけですよ。部活の買い出しってことにして、1日付き合います、先生。だから黙っててくださいね、本当に。お願いします、先生」


「うん、わかってるよ! それに私に付き合ってくれるんだからお互いウィンウィンってことで……ってパフェ届いたよ、食べよ食べよ!」

そんなことを話しているとさっき注文したパフェがやってくる。


「ねー、すごく美味しそうでしょ!」


「……すげえですね、マジで。なんじゃこりゃ」

それはかなりの大きさで、めちゃくちゃ甘そうで。

ボリューミーで、フルーツたちが色鮮やかに輝いてて……すごいな、これ。食べれるかな、こんなサイズの化け物パフェ。


「ふふっ、それじゃいただきまーす……あ、そうだ、あーん!」

笑顔でパフェの前で手を合わせていた先生がピタッと手を止める。

そして、目を瞑って期待のまなざしをで僕に顔を向ける。


「……いかがしましたか?」


「もう、察しが悪い男は嫌われるよ、本当に! あ~ん、だよ、あ~ん! せっかくなんだからしてほしいな、あ~んって!」

少しほっぺを膨らませながら、そう言ってパクパク口を動かす先生。


「……さすがにやらないですよ?」


「え~、いいじゃん! してよ、せっかくなんだし!!!」


「ダメですよ、教師と生徒ですよ。そんなカップルのデートみたいなこと、だれかに見られたら「む~、隙ありっ!?」「むぐっ!?」

そんなことできない、と断ろうとしていた瞬間、先生のスプーンに乗ったパフェが僕の口の中に入ってくる。


びっくりして声も出せない僕に、嬉しそうに笑う先生が

「えへへ、私は岡島君にあ~んしたよ! これで君も、私にあ~んしないとね!」


「……ずるいですよ、先生」

本当にずる過ぎるって、先生。

本当にもう……このパフェ、ちょっと甘すぎるし。



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ママ活したら先生が来た。年下幼馴染もグイグイ来るようになった。 爛々 @akibasuzune624

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