第3話 LV10.2 脳筋魔法使い

「我が蛇炎よ、道阻む者を食らい尽くせ……インフェルノフレイム!」

―――カスッ

マッチでももっと良く燃えるであろう炎……いや火?が出た。

祝って欲しい、これが僕の生涯始めての魔法である。


―――王都魔道図書館

文字通り魔導書や魔法書がこれでもかと保管されている図書館である。

入場には100Gも取られるが、今回なんと100%OFFで入場できる機会を頂戴した。


「この書物はこちらでいいですかー?」

「あっ、その中の紫の魔導書だけピックアップしてこちらにお願いしますー」

「うぃーっす」


―――なんのことはない、ただの労働である。


先の一件でこの世界にも魔法があることを知った僕は、この図書館の存在を教えてもらうと、即座に入館を試み……10日分の生活費と魔法を天秤にかける必要に迫られた。

そこで今回の依頼である。魔導書の大規模搬入に合わせ、その運搬補助という名目で触りだけでも魔導書を閲覧することで自分に魔法の才能があるかどうかを図る作戦である。もし僕に魔法の才能があるのなら100Gの投資に価値はあるかもれしないが、脳筋であれば10日分の生活費をドブに捨てることになる。この依頼はまさに渡りに船だった。


仕事を終え、うろ覚えではあるが炎の魔法の使い方は学んだつもりだ

学んだつもりだったのだが―――


結果は―――冒頭の通り、脳筋である。



「蛇www炎wwwイwンwフェwルwノwフwレwイwムwww」

「!?」

「いや失敬、蔵書をつまみ食いしていたのは見ていましたが、そういうことでしたかwww」

「……忘れてください」

「そうですね、蛇炎インフェルノフレイムさん」

「…………」

「ははは、すいません、久々にツボに入ったもので」

「忘れてくださいおねがいします」

「えぇ、笑い話で済んだから良いのですが、本来魔道図書館敷地内、敷地周辺での魔法の使用は屋外であってもご法度です。蔵書を燃やす危険性のある炎魔法などは論外です」

「……あっ、すみません」

「幸いに蛇炎さんの魔力がクソだったから笑い話で済んだんですが、たまにいるんですよね、本を読んでその気になってボヤ騒ぎとか起こしてしまう人が」

「ホントすんません、でもさらっとディスるのもやめてもらっていいですか」

「アッハイ、まぁ今更聞くのもあれですけど、蛇炎さん転生者ですよね?」

「ネットミーム通じる時点で、もう察してるわ」

「それな」


―――それから、互いの話や、近況など取り留めのない話をした。

彼はこちらに来てそうそう、図書館の司書を目指したという。最近念願かなってその仕事に就いたということなのだが……、紙から作る必要が無い分、こちらの世界は恵まれてるな、と冗談交じりに話したら、伝わらなかった。名作なんだけどな。


だが、久々に楽しかった、かつて使っていたSNSを思い出して

ネットイキリをしていたころを思い出しお互いに自爆していた。


―――久々にマトモに人と話したな、少なくとも楽しい時間を過ごせたとは思った。


「王都の宿泊料金、50G!?」

とんでもない事実を聞いてしまった。田舎の相場の5倍である。

しかもこれでもかなり格安の部類で王都郊外でも100G、中央部では200Gにおよぶ宿泊施設が大半だという。

日帰りで帰りたいところだが、魔道図書館の仕事がまだ残っている。この宿泊料金も依頼料に込みにできないだろうか……


―――食事もベッドも田舎町のそれとは比較するのもおこがましいほどに豪華であったことは付記しておく。


「蛇炎さん。今回の報酬、200Gだ」

「4日分の生活費か……」

「2日の労働で4日生活できれば御の字だろ、それに王都ならもっといい仕事もあるぞ」

「いや、僕は田舎町のオンボロ宿屋が性に合ってるよ」

「あー……そうか、帰るのか、久々にこっちの話ができるヤツと会えたんだけどな」

「定職就いて馴染んでる時点でもうそっちの住民だろ」

「だといいんだけどな」


しばしの無言。そして


「蛇炎さんは、また王都に来る気はあるかい?」

「……たまに仕事探しに来るかもな」

「ならこの本を次に来るまでに読破してくれよ」

本棚から片手で取り出しているようだが、これは凶器と見紛うほどの分厚い本だ。

「初心者用魔導書、基本の6属性は抑えている、これ読んでダメなら蛇炎さん(笑)だ。」

「図書館内の本は持ち出し禁止では?」

「持ち出しは禁止だけど、購入は可能さ」

「いいのか?安い買い物じゃないだろう」

「具体的には3600G 蛇炎さんの言葉を借りれば2か月分の生活費だ」

―――1年暮らせるわ……

「次に来るまでに読破して返してくれればいい、売上はぼくの給料にも反映されるからね、気に入ったらリピーターになってくれると嬉しい」

「わかった、読破したら返しに来る。さすがにその額の本もらって”ハイ、さよなら”は寝覚めが悪い、だがそんな高額な本を買えるかは……」

「期待しないで待ってるよ」

「そうしてくれると助かる」



以上が魔法に興味を持った結果、差し引き150Gと、高額な魔導書を手に入れた顛末だ。

今後、王都の一部界隈で、蛇炎インフェルノフレイムという不名誉な二つ名で呼ばれるようになったことは僕の生涯最大の汚点として記録しておきたい。


勉強なんてするもんじゃない、やはり僕は引きこもって惰眠を貪っているのが性に合っている。


あぁ……帰って、寝たい。












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帰って、寝たい。 @dmrsky

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