第2話 LV10.1 孤独のパーティ

「君が小鬼殺し、いやゴブリンスレイヤーかい?」

―――いや、そんな全身鎧で凶悪で醜悪なゴブリン専門で狩る銀色冒険者ではないぞ?

「さっそくですが、ぼくとパーティを組んでダンジョンを攻略しませんか?」

「せっかくですが、お断りします」

「残念、ではひとつ質問をしてもいいですか?」

「はぁ……なんですか?」

「出身はアジアですか?それともアメリカ?あるいはヨーロッパ?アフリカ……の人は見たことないですが、あるいは?」

「!?」

「やはり、あなたも転生者でしたか。僕は日本出身です。今まで何人か転生者と出会いましたが、アメリカ、中国、ヨーロッパあたりの人でしたね」

「ゴブ○ンスレイヤーをご存じということは割と最近の人ですね」

「ご存じでしたか!? こちらの世界はあの世界ほど殺伐としてなくてホッとしてますよ!」

―――いや、この世界も大概だと思うが

「そうと聞いたらなおの事パーティに誘いたくなりました、NPCと違って転生者は能力がダンチですからね!」

―――あぁ……こいつは人の話を聞かないタイプだ。


結局押し切られる形でともにダンジョンに向かうことになった。

稼ぎは折半。ただし、彼曰く”NPC”の仲間が3人いるらしい

某RPGと違って5人でも6人でもパーティが組めるのはいいな。

―――そういえば最初の冒険は11人の大所帯パーティだったな、僕含め全員死んだが。


紹介されたパーティメンバーは全員女性だった。

「やりやがったな―――」

「?」

「いや、すまない。オッサンネタだ」

名前は……ハルナだかナツキだかアキホだかそんな感じの名前だ。

それぞれ魔法使い、回復術師、剣士ということだ、バランスが取れている。

そういえば僕にはジョブがないな、なんだろう「ニート」ってわけにもいかないだろうし。

「基本的には……ぼくが最前線で敵のヘイトを稼ぎ、アキホ(剣士)がダメージを与える。ハルナ(魔法使い)は攻撃魔法でサポート、ナツキ(回復術師)が被弾時の回復」

―――あれ?これ僕いらなくね?

「あなたには後方の索敵サポート、不意の後方襲撃に備えて欲しいです」

―――なるほど、それなら楽できそ……いや、適役だ。



―――結論から言おう。楽はできなかった。

「アキホ!なんでトウヤの前に出るの!回復間に合わないじゃない!」

「うるさいわね!倒したんだから問題ないでしょ!」

「……射線上に立たれると、邪魔」

女三人寄れば姦しいとは言うが、これほどとは

1戦ごとにこうやって揉めるもんだから、ダンジョン入口に到達するまでひと苦労。

ダンジョン探索の前に疲労困憊で倒れそうだ。


案の定、僕が想定していた数倍の時間を要した。

空も色を変えてきたので、ダンジョン手前でキャンプを張り一晩野営することになった。

さすがに彼らは手馴れているようで、火の番、見張り範囲をさっさと決める。

「あなたは番をしなくていいです、さすがに女性3人相手に襲う度胸は無いと思いますが、念のためです」

―――申し訳なさそうな顔をしないで欲しい、願ったりかなったりだ


いざ迷宮探索―――とは言っても出てくる魔物はゴブリンと大差ないもので、8割以上発掘を終えた、ただの魔物の巣のようなものなのだが。


「ハルナァ!こんな狭い洞窟で大魔法ぶっぱなすなぁ!!」

「通路にまとまったところを殲滅できた、手間、はぶけた」

「トウヤ、大丈夫?思いっきり射線上にいたけど……」

「あ、あぁ、気配はしたからね……、でもちゃんと言ってから撃ってほしいな」


―――最後列で良かった。前に出てたら「おお勇者よ―――」のパターンだこれ


ダンジョンで得られた報酬は5000Gを越えた。

「僕は何もしてないし、報酬は数日分の生活費でいいですよ」

(そうね、実際出番なかったわよね)

―――おい、聞こえたぞ

「そういうワケにはいきませんよ、ちゃんと1人分、1054G。受け取ってください」

押し問答の結果、僕の報酬は端数の268Gということで”お互い”納得した。

「後方を見てもらえると助かるんですよ、なので是非次もご一緒したいんですけど」

―――こちらとしても2日3日で1ヶ月分の生活費が得られるならいい話ではあるのだが

(………………)

無言の圧力×3

「いえ、みなさんの実力なら、僕の力は必要無いでしょう」

―――試用期間中に僕は実力を示せなかった、だからこの話はここまでだ。

今後の活躍をお祈りいたしますってことだ。


こうして僕のはじめてのパーティは終わった。


―――数日後


アキホとかいう剣士女が死んだ。

正確には瀕死の状態で村に運ばれてきた。

「ヒール! ヒール! アキホ! 目を開けて! アキホ!」

村につくや薬草という薬草を買いあさり、全身草まみれになった剣士に必死の形相で

回復呪文を唱える回復術師。

祈るような目で見つめる二人は、確かトウヤとハルナだったか。

何があったか想像に難くないが、さすがに無視するのも気が引けた。


―――案の定、剣士女の無謀な突撃で、サポートが間に合わず魔物の致命打を許したという話だ。

定型文の見舞いの言葉を述べ、去ろうとすると


「今夜、一杯付き合ってほしい」

無関心な性格とは思っていたが、トウヤからの誘いを断れるほど薄情では無かった


適当に思い出話に付き合う。なんでもアキホは最初にパーティに誘ったNPCだそうで、付き合いは1年ほどになるそうだ。転生者と区別するためにNPCと呼んではいるが、その中身は明らかに人間で話せば話すほどそれを確信したという。

最初はゲームのつもりでハーレムパーティを作るつもりでいたが、今では彼女たちを人として仲間として信頼している。というようなことをつらつらをしゃべっていた。


「やはり、ぼくも死んだら終わりなのか」


彼の呟きを聞いて ”いや、教会にリスポーンするぞ” とは言えなかった。

話を聞くに、彼はまだ死んだことが無いのだ。そして彼も僕と同じようにリスポーンするとは限らない。


かつての盗賊団事件の折、亡くなった冒険者や盗賊はみな ”終わった”

あの中に転生者がいなかったとは思えない。特にあの話を交わした盗賊は、人間臭さというか俗物的な感じは転生者ではなかったか?

そして彼は ”終わった” のだ。

僕の中で結論が出てない話を気軽に他人様にすることはできない……


「zzz…………」


あぁ、寝てくれたか。助かった。


それから簡単に追加で食事を済ませ、二人分の会計プラス、場所代ということで若干チップを上乗せした料金を払う。

寝息を立てる ”勇者様” を尻目にどうしたものかと思案していると


「すみません、ウチのトウヤがご迷惑を」

―――回復術師の……ナツキさん、だったか

「すぐに連れて行きますので……」

彼女との距離は歩数にして5、6歩程度

一歩二歩……、三歩目を歩いたところで意図に気付く。

「女性の……いや、後衛職の方の力では無理ですよ」

”勇者様” を傍らに抱え、案内を頼む。

すみません、という声が聞こえたが聞こえないフリをした。


案内された部屋に入る。

すると、ぐったりとした様子の少女がランタンの明かりに照らされて、青白い表情のまま掛けていた。

「ハルナ!!」

胸にはナイフが深々と刺さっている……すでに息はないように見えた。


テーブルの上には遺書と思しきメッセージがあった。

「この世界はもう嫌です、怖いです、ごめんなさい、さようなら」

……日本語だ。


それから、”勇者様” は冒険者を辞めることにしたという。

正確には、日銭を稼げる程度の安全な仕事はするが、危険なダンジョンにはもう行かない、ということだ。つまり僕と同業になるということらしい。

仕事も人も物も多い王都に向かうとのことで、競合は避けられたのが幸いか。


余談ではあるが、出立前の ”回復術師” と話す機会があった。

「僕、名探偵コ○ンが好きなんですよ」

「…………」

「知ってるという前提でお話するんですが、彼女のナイフ逆手で刺さってたんですよね」

「……脅迫でもするつもり?」

「いいえ、気になったことは調べないと気が済まない性分でして」

「相○も好きなのね、何期まで追いかけたのかしら?」

「こんな世界です、倫理とか高尚なお話をしようとは思いません。

ただ、ハルナさん……彼女は転生者だったんですかね?」

「知らないわよ」

「そうですか、そこだけ知りたかったもので、残念です」

「変な人」

「よく言われます」

「じゃあね、もう二度と会わないと思うし会いたくもないけど」

「僕もですよ、月並みですが、どうぞご壮健で」

「ふん」


結局、転生者の死は ”終わり” なのか、という疑問は解消されることはなかった。

「おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない」

これは僕だけに与えられた特権なのか、そうではないのか。

その謎はまだしばらく解けそうにはない。



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