帰って、寝たい。

@dmrsky

第1話 LV10 小銭を稼ぐ。

「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


聞きなれたフレーズ、大仰な教会。

RPG好きな僕らなら、誰もが知っている展開。

そう、僕は死んだ。それもあっけなく。


2回目の死は、最弱のモンスター”ゴブリン”によってもたらされた。

ヒットポイントという概念が無い不親切設計。

そして彼らは全力で僕を殺しにきた。

最初の3匹は持っていたこん棒で倒せた。

しかし、彼らは僕を脅威とみなしたのか仲間を呼んだ。

4匹目を殴った瞬間背後から殴られた。

そこから先の記憶はない。それが致命傷となったか、昏倒しなぶり殺しにされたか。

いずれにせよ僕は2度目の死を迎えた。


さて、こういう展開では所持金の半分が奪われて体力がほぼない状況からの復帰が常だが、残念。

僕は一文無し、だからこそ今夜の宿代を稼ぐべく村の周辺で魔物退治を買って出たのだが、この始末。


犯人は現場に戻る、いや僕は被害者でもあるのだが―――

とにかく僕は復活するやさっそくゴブリン殺害現場に向かった。

そこには無造作に打ち捨てられたゴブリンと、いくばくかの金になりそうな素材が転がっていた。―――このゴブリンも素材になるのだろうか?


ゴブリン三匹で18G 持っていた素材のうち、薬草があったようでそれが3Gで売れた。今夜の宿代になるか聞くと

「本当なら一晩10Gなんだが、かわいそうだから今日はタダでいい」

とのこと、それとなく「臭うから、先にシャワー浴びてくれ」とも言われた。すまない。


翌日、それからは慎重にはぐれゴブリンを狙い、1匹仕留めたら村に素早く戻ることを心掛けた。

2時間で六匹、36G。薬草も売り計42G。稼ぎとしては昨日の倍以上だ。

「2時間働けば4日寝て過ごせる、なんていい世界なんだここは」


週休5日、2時間勤務。そんな生活を怠惰に続けていると

「隣の村が山賊に襲われたらしい―――」

そんな話が飛び込んできた。

「この村が襲われるのも時間の問題だ、冒険者を集めて討伐に動こう」

そうか、勤勉な若者が多いのだな。僕はそんな恐ろしい相手と対峙するのはごめん蒙る―――

「アンタも手伝え、この村で世話になってる身だろう」

あぁ、はい。そうなりますよね。死なない程度にお手伝いするんで全滅だけはしないでくださいよ―――


案の定というかなんというか。対峙する盗賊は8名。我らが誇る冒険者隊は10名+ニート志望1。

これは楽させてもらえる、そう思っていたのだが。

血気に逸る若手冒険者が落とし穴にハマり戦闘不能。足が折れて使い物にならない。

混乱するスキを縫って8名の盗賊は我らが前衛を崩しにかかる。

前衛4名がダメージ。反撃を試みるも4人とも相手のコンビに翻弄されている。

「ツーマンセルかよ、相手は相当の手練れだ」

こんな烏合の衆では数的優位もなにもあったものではない。

ほどなく前衛は崩れ―――


「おお、勇者よ、死んでしまうとはなさけない」

知ってた。即死できなかった分、途中すげえ痛かった。所持金は半分になってた。


「あんただけでも無事で良かった、他の冒険者は残念だったな」

どうやら復活した僕はほうほうの体で逃げ出した、という認識でいるらしい。

すまない、ただのデスルーラだ。


それから数か月。僕はのんびりゴブリン退治をやっていた。

盗賊団は攻めてくるでもなく、王国への援軍を依頼するも返事は生返事。

8名というそこそこの規模をもっているため、血気に逸る冒険者が時折訪れるが

僕が見た光景を伝えると、彼らは怯え諦めるか、単身突っ込み帰ってこないか、のどちらかだった。


そんなある日来客があった。

正確には僕ではなく、町の道具屋に

「冬を越せるだけの食糧と日用品が欲しい」という客が現れた。

彼が持っていたアイテムの一部には見覚えがあった。

そう、かつて血気盛んに突っ込んだ冒険者の遺品。

よく見るとかつての仲間の遺品もいくつか混じっていた。

そして、そんな彼と目があった―――合ってしまった。

「貴様―――」

あぁ、そんな目で見るな。僕は別に仲間とか自分の仇とかリベンジを果たす気はない。

平和で文化的な最低限度の生活を謳歌したいだけなんだ―――


「すみません、落ち着ける飲み物を二つ、一つは彼に」

こんなところでドンパチする気は無いし、ここで和平締結できるならこの村の安全も担保できる、大事なのはまず話し合う気持ちだ。


「変なやつだな、お前」

「よく言われる」

「あの混乱の中姿をくらまして生き延びてる図太さには敬服するが」

あぁ、すまない―――生き延びてはいない

「で、このドリンクの代金は?」

「話が早くて助かる。戦う気が無いならこの村の襲撃は止めて欲しい。必要なものがあるなら仲介もしよう」

「願ったりかなったりだ、だがいいのか?俺たちはすでに幾人もの人を殺めている」

「全然関係ない人さ」

「あっ―――悪いヤツなんだな、お前」

「お前が言うか」

「ははっ」

こうして、非公式ながら盗賊団と村の不戦条約は結ばれた。

彼らの軍資金はやはり周辺の魔物と、時折血気に逸った冒険者からもたらされる。

我が村は、その軍資金を物資販売という形で回収できる。

いたましい犠牲に目をつぶれば、お互いの利害はWin-Winと言えた。


そんな蜜月も長くは続かなかった。

いや、無法が1年弱まかり通っていたのだから、長かったのかもしれない。

ともかく王国軍が動いた。

10名規模の騎士団が動く、腕前はそこらの冒険者なら片手で捻るほどだという。


「―――で、それを俺に伝えてしまって良かったのか?」

「伝えなかったら、それはそれで不義理だろうよ」

「変なやつだな」

「よく言われる」


それから、数日後。村には「盗賊団撃滅せり、首領とおぼしき者を含めた男女6名を殺害、数名が逃亡、各自生き残りに警戒すべし」との知らせが入った。


「情報が遅れてしまってすまない」

「いや、あいつらは逃げることを面倒に思って立てこもったのさ、自業自得だ」

「そうか」

「……」

「どうした?」

「いや、なんでもない」

「いいことを教えてやる」

「いいこと?」

「あぁ、教会には懺悔室というものがある、基本的には秘密厳守だ、全部話すのは無理でも聞いてもらえるだけですっきりするぞ」

「罪は許されるか?」

「裁くものがもうこの世にいないだろ」

「……そうだな」


―――数日後、その元盗賊が殺害された。

犯人は身重の女性、いや少女と言って良い年齢だった。

彼女曰く「彼は両親や友達、村のすべての人を殺し、若い娘を手籠めにした」

曰く「騎士団に殺害されたのは少なくとも3名はおそらく村の女性」

曰く「彼女たちは出産を控え逃げるに逃げられなかった」

曰く「私は無理やり引きずられるように村を出た」

曰く「彼は突然ナイフを手渡し”好きにしろ”とだけ呟いた」

曰く「感情のまま突き刺した、彼は表情を変えることなく、むしろ安らかにすら思える表情で―――逝った」


僕は村周りのゴブリンを狩っている。

今では1時間も働けば1週間分の稼ぎは得られるだろう。

心なしか今までより狩り切るまでの時間が短くなっているようだ。

不意の一撃にも耐えられるようになった。致命傷を避けられるようになったのだろうか。


数か月後、彼女は結局お腹の中の子を出産し、子供を王国孤児院に預け、自身は今後教会に身を寄せ奉仕活動に従事するということだった


僕は村周りのゴブリンを狩っている。

文化的で健康的な、は難しいとしても最低限度の生活を続けるために

「異世界でも、生きていくって難しいな―――」

そんな呟きはゴブリンの腐臭とともに、風にかき消されたのだった―――










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