3-29 近づく魔法使いの街

「そういえばこの辺りの森とかにも街から離れた集落とかあったりするのかな」


 エルシュヴィレンを出発して2つめの宿場町に着いた後、部屋で一息ついた時にふと思いだした。


「それはリアンクルを出た後に寄ったところみたいな集落ですか?」

「そうそう。他の場所にもあるみたいなことを言ってたし、今まで意識してなかったけどケルソンバートとエルシュヴィレンの間にもあったのかなぁって」

「何の話?」


 俺とシルフが話してると森の集落に行った時にはまだ一緒じゃなかったコールが尋ねて来る。リアンクルの側の森の中で街から離れて暮らしてる人の集落があって、事情があってそこに寄ったことなどを説明した。


「街の外に住んでる人もいるしそういう人が集まれば集落にもなるんじゃない?というかそれが大きくなれば役場が建って街として扱われるようになるんだろうし」


 コールの言う通りだな。街に人が集まるんじゃなくて人が集まった結果が街なんだ。


「なに?そういうところに寄りたいの?」

「いや、そういう人達にも考えがあってのことだろうしどこでも顔を出したいってわけじゃないんだけどね。ジェドウィックの近くにそういう集落があればそこの人はやっぱり魔法が上手く使えないせいなのかなって」

「あ~そういうことね。でもジェドウィックの街の人みんなが魔法得意ってわけじゃないわよ」

「そうなのか?」

「そりゃそうでしょ?魔法協会があってそう言う人達が良く集まるけど住人全員が得意なわけじゃないわよ」

「魔法協会があって魔法使いの街って聞いてたからほとんどの人が魔法使いなんだと思ってたよ」

「そう思ってジェドウィックに行ったらがっかりするかもね。そりゃ他の街よりは多いけど魔法使いの街って言われるほどじゃないと思うわ」


 エルシュヴィレンもそうだったけど噂には尾ひれと言うか特徴が大げさにとらえられる感じはあるのかもしれない。地球でも外国のイメージって偏ってたりするしな。


「でも魔道具の製作なんかはジェドウィックでやってるんだろ?」

「でも特別な人しか作れないってわけじゃないみたいよ?あたしも詳しく知らないけど」


 そうなのか。そうなるとわざわざ目的地にして目指す意味もなかったのかもしれない。いや、それでもやっぱり魔法使いは他の街より多いんだから何か得るものはあるだろう。


「俺の魔法習得の早さってバレたらマズいかな?」

「マズいわね。習得の方はギリギリ大丈夫かも知れないけど教える方の効率が良いのは隠さないとダメね。ギンジの活動次第では魔法教師の価格崩壊どころか他の魔法教師全員が職を失うもの」

「でもほとんどの魔法使いって戦闘能力ないんでしょ?魔法教師も同じじゃないの?」

「そりゃ全員がただ殴りかかってくるだけなら問題ないけど、権力でこられたらギンジも勝てないでしょ?お尋ね者になってもいいの?」

「それは困る」

「なら黙っておくことね。といっても普通は誰も信じないわよ。'1日で魔法教えます'なんて詐欺教師でも言わないわ。せめて1週間は稼がないと」

「いやいや、詐欺をするつもりもないし金を取るような相手に魔法を教えるつもりはないよ」

「でも女の子は惚れさせちゃうから金を取るよりひどい男よね~」

「はいはい」


 コールのこういう揶揄いは軽く流すことにしよう。


「とにかくどんな街かは俺たち3人は分からないからな。コールは案内を頼むな。店や役場の場所くらいは分かるだろ?」

「バカにしないでよ!一応10年以上暮らしてたんだから!」

「ちなみに狩りとか採集で稼ぐのってできるかな?」

「そうね。やっぱり素材を求める人が多いから素材を集めて売ってもいいし、素材を集めに行く魔法使いの護衛なんかもいいと思うわ。護衛しながら自分達も採集すれば二重で稼げるしね」

「それはいいかもしれないな。いい依頼があればその方向で。無ければ自分達で直接採集してしまおう。シルフもそれでいいかな?」

「私はどんな形でも大丈夫です!」

「シルフが調合した薬も売れたりしないかな?」

「どうかしらね。その辺は魔道具屋の管轄だから買い取ってもらえるか聞いてみたらいいんじゃないかしら」


 どちらにせよ着いてみないとわからないな。とりあえずは無事にジェドウィックに着くことを考えよう。



 そう思っていたのだが相変わらず道中は平和なものだった。何よりジェドウィックに近づくにつれてどんどん道がしっかりとした物になっているし、街灯のようなものも立っている。俺達は昼に移動して陽が暮れる頃には宿場町に到着していたので明かりが灯っているところを見てないけど、コールに聞いたところ光る魔道具が設置されていて暗くなると光るらしい。自動オンオフの街灯なんてハイスペックな物があったなんて。一応寿命はあるので定期的に交換されているそうだがジェドウィックに近づくほど街灯の量は多くなっていった。


 宿場町の宿でも魔道具が多く使われていてジェドウィックに近づいている実感はあった。

 部屋にも水の魔道具と洗面台が置いてあった。今は季節的に使われていないが暖炉のようなものもあって火をつける魔道具も設置されている。薪だけ用意したら暖房もできるわけだ。もちろん部屋の明かりも魔道具が設置してあるがこれくらいは今までの宿でも見かけたが。


 コールに聞いたらこういう生活品の魔道具はジェドウィックの街の中もやはり普及率は高いとのことだ。シルフなんかは宿の部屋の充実に驚いていた。コールは逆にこれが当たり前でケルソンバート辺りでは不便に感じてたみたいだ。ということはジェドウィックでは教会でもこういった設備は整ってるんだろうな。

 リアンクルでは体を鍛えてる人がたくさんいて当たり前のようだったしやっぱり街ごとに特徴があるんだなぁと改めて感じる。


 地図を確認しながら進んでいるが今泊まっている宿場町を出れば明日中にはジェドウィックにたどり着くだろう。

 コールには過度に期待しないように言われたがやっぱり魔法使いの街、少し楽しみに思いながら俺は眠りについた。


 ちなみに道中の宿場町ではちゃんと部屋が取れたので、一人ひとつずつベッドがある。なので特に何もなかった。念のため。

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