3-28 犬犬猫

「昨晩は何もありませんでしたの・・・?」


 俺とシルフに起こされたセレンは目を覚ますとバババッと自分の服や体を確かめると俺の方を見てそう言った。


「同じ部屋で4人で寝てるのに何かあると思ってたのか」

「それでもギンジだって男ですし!?もしかするのではと」

「とりあえず朝食にしようか」


 セレンがまだ何か言っていたが聞いていても仕方ないのでスルーしておく。



「それで、どうしますの?今日は安息のイドの日ですし街でもやれることは特になさそうですが」


 朝食の後、まるで朝のやりとりが無かったかのようにセレンが言う。まぁいつまでも引きずられても困るしその方が助かるな。


「いっそ今日出発するか?急だけど準備をするにしてもこの街だと買い物も大変だしな。食料なんかも滞在が長くなれば減っていくし早く次の宿場町なんかに行って買い足す方が良いかもしれない」

「さんせーい」

「そうですね。元は泊まらない予定でしたし、泊まって少し街のことも知れたのでそれでもいいと思います」


 コールとシルフも賛成のようだ。正直言うとこのままここで連泊となると今日はシルフかコールと同じベッドで寝ることになるからな。さっさと出発してしまいたい。いや、女の子と一緒に寝るのが嫌というわけじゃないんだけどね。


「それでしたらすぐに準備しましょうか。ギンジは例の衛兵さんに挨拶しなくていいんですの?」

「ああ、別に構わないだろ。それより一晩とはいえ世話になったからな。この小屋を掃除しておこう」


 老夫婦に今日出発することと、小屋を軽く掃除をしたことを伝える。あんなにたくさん薪を割ってくれたんだからもう少し泊まってもいいのに、と言われたがまぁそれは今度来た時にでもまたお世話になることにしよう。



 というわけで今は御者台に座ってガタゴトと馬車に揺られている。一晩泊まったが結局はほぼ素通りした形になったな。エルシュヴィレン、次に寄る時はぜひ節末祭でどんな交渉が行われているのか見に来たいもんだ。



「それで、昨日はちゃんと寝れたの?」


 御者台で俺の隣に座っているコールが小さな声で聞いて来る。シルフとセレンは今は荷台にいる。


「普通に寝たけど?」

「そうなんだ。あんなにギューッって抱きつかれてたのに寝れるもんなんだね」

「・・・見てたのか。俺も寝てる時は気が付いてなかったんだよ。起きた時は驚いたが」

「さっさと手を出しちゃえばいいのに」

「簡単に言うなよ」

「責任取る気あるならいいんじゃない?」

「気持ちで何とかならないこともあるだろう」

「お金ってこと?」

「そりゃそうだろ。決まった仕事をしてるわけじゃないしな」

「戦士なんてそんなもんじゃないの?ギンジも教会出身なんだっけ?」

「いや、俺は教会で育ったわけじゃないけど、家族もいないし同じようなもんだな」

「変なの。まぁいいけど。とにかく親の仕事を継ぐわけでもないなら安定した仕事なんて役場の人間くらいなんじゃないの?商売だって長い目で見たら潰れることもあるんだし」


 そう言われるとそうなんだけど、やっぱりまだ日本の時の間隔が抜けないんだよな。正直言うとまだ自分が大人として扱われているのにも慣れてないし、家族を持つ覚悟なんて全くない。覚悟というよりも実感か。もし今子供を作ったら16歳でパパになることになる。想像できない。


「ギンジが良いならあたしが言うことじゃないけどね。ただこんな風に旅してると色々我慢するの大変じゃないの?」

「女の子がそういうことを言うもんじゃないよ」

「荷台の2人がどれだけ理解してるか分かんないけど、色々考えて我慢してるなら積極的な方が困るんじゃない?」

「困るってわけじゃないよ。のらりくらりとしてる自分が少し申し訳ないとは思うけど」

「ふ~ん。まぁ頑張ってね。あ、今日も'これ'よろしくね」


 そう言ってコールが俺と手を繋ぐ。魔法共有するのを忘れていたな。とりあえずコールは氷以外の魔法もドンドン使えるようになりたいみたいだし、訓練もしっかりしないとな。


「魔法教師が一番向いてそうだけど、公認取れないとダメだしギンジが教師になったら他の教師が商売にならないからねぇ」

「これで稼ぐつもりはないし、誰にでもやるわけじゃないよ」

「ん?あたしも特別ってこと?」

「まぁな。って直接聞くな!」

「ギンジはあんなに可愛い2人の嫁がいるのに強欲だねぇ」

「別に嫁にしようとはしてないよ。ただ生きていく手助けをしたいだけだよ」

「その結果付いてきちゃうと」

「そんな犬や猫じゃないんだから」

「そう言われると2人とも犬っぽいね。シルフはご主人様の言うことしっかり聞く賢い犬で、セレンはご主人様大好きですぐじゃれてくる犬!」

「それじゃあコールは猫かな」

「あたしももう餌付けされてる!?」

「餌付けどころかコールから声かけて来たんじゃないか・・・」

「そういえばそうだったね」


 そんなことを言いながら魔力を流す練習をする。最初は魔力の流れも全く分からないと言っていたが少しずつ意識して流せるようになってきたようだ。これに慣れたら次は水の魔法から練習だな。今度は魔力酔いさせないように俺もコールの魔力の流れを感じるように意識する。


「コールはジェドウィック出身なんだよな?知り合いは多いのか?」

「出て来たばっかりだからね。教会にいる子はみんな知り合いだし」

「それじゃあ教会には寄らない方がいいか?」

「関係ないわ。それにこんな短期間で嫁ぎ先見つけて戻って来たんだから自慢したいくらいよ」

「いつから嫁ぎ先になったんだよ俺は」

「あれっ!?エルシュヴィレンに入る時に3人とも嫁だって言ってたじゃない」

「あれはその説明が一番楽そうだったからで」

「なんだ。てっきりこのパーティはギンジの嫁しか入れないのかと思ったのに」

「そんなわけないだろ」

「まぁ2人が3人になったってあんまり変わらないでしょ」

「冗談じゃないのか?」

「さぁね」


 コールはふわふわしていてどこまで本気かわからん。

 やっぱりこいつは猫だな。

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