3-27 同衾
衛兵のアルバートと話をした後、今晩泊まる予定の小屋に戻るとまだ3人とも起きていた。
「おかえりなさいませ」
「おおっ!?ただいま」
近いっ!
扉を開けたら目の前にセレンが立っていて俺を出迎えてくれる。シルフとコールもそれぞれ「おかえりなさい」「おかえり~」と声をかけてくれる。
「3人ともまだ起きていたんだな。それにセレンは・・・もしかしてずっと扉の前で待っていたのか?」
「はい。と言いたいところですがギンジの足音が聞こえたからですわ。さすがにずっとではありませんわ」
さすが
「それにしても思ったより早かったね。あんまり話聞けなかったの?」
「そうだな。話自体はそんなに長くならなかったがちゃんと聞いてきたつもりだぞ」
コールはこの街を金の街だと俺たちに紹介したからかこの街のことが気になっているようだ。
「それで、この街のことを
「もちろんそのつもりだけど明日でも良くないか?今日のところはもう寝てしまっても」
「そうですわね。ちなみにギンジは
「えっ!?なんで!?」
「クジ引きで決めましたのでちゃんと公平ですわよ?」
「そうじゃなくて、俺は床か馬車の荷台で寝るって言ったよね?」
「それならギンジが1人でベッドを使って他の誰かが床か荷台で寝てもいいってことですわよね?」
「それはちょっと・・・」
「ギンジが床で寝た場合にベッドを1人で使う人も同じ気持ちになりますわ」
俺がベッドで寝て女の子を床で寝かせるのはさすがに申し訳ないが逆も同じなのか。でも男と女だしちょっと条件は違う気もするけど。
「あたしは1人でもいいよ~」
「「・・・」」
セレンの言葉に説得されそうだったのにコールの一言で台無しになった。
コールはベッドで1人でもいいし床で寝てもいいよ。とのことだったがその場合は誰が床で寝るかも公平にクジ引きをするかどうかとセレンに迫られたので諦めてセレンとベッドで寝ることになった。ちなみに同じようなことがあった場合は俺と一緒に寝るのは毎回クジをするのではなく順番で交代するらしい。俺の意志は・・・
「そ、それでは失礼しますわね」
「お、おう。おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
そんなに大きなベッドというわけではないので隣にいるセレンと肩が触れ合うくらいの距離でベッドに寝転ぶ。セレンもあんなに強気だったのにいざ寝るとなると少し緊張しているようだ。
俺も少し緊張する。こんな風に同世代の異性と同じ布団に入ることなんて日本でも無かったし、しかも相手は俺に行為を持ってくれている美少女だ。隣のベッドに人がいるとはいえつい意識してしまう。
こんなんで寝れるのかよ・・・と思って隣にいるセレンの方に顔を少し傾けセレンを見ると
セレンはもう寝ていた。
それはもうキレイな寝顔で、すーすーと整った寝息を立てていた。
隣のベッドからはシルフとコールがひそひそと話している声がする。
セレンが寝たことだしベッドを抜け出そうかとも思ったが、それはそれで後々面倒になりそうなのでこのまま眠ることにした。ちなみに緊張していたのもアホらしくなったので俺もあっさり寝た。
窓から差し込む朝日で目を覚ます。
少しずつ覚醒する意識の中、左腕に違和感を覚える。左側にいるセレンが俺の左手を組むというか抱きつくような形で眠っている。寝ている間に体に触れられても起きなかったのはまずいな。野営の時は気を張っているがやはりちゃんとした家で泊まっていると眠りが深いのかもしれない。気を付けないと。
それとセレンが抱きついているのもまずい。眠っているセレンを起こさずにベッドを出るのは難しそうだし、抱きつかれているので左手にそのいろんな感触が。若い男の寝起きにこれは破壊力がでかすぎる。しかも左肩のすぐそばには美少女の寝顔。うん。まずいな。
このままだと落ち着くものも落ち着かないので諦めてセレンを起こしても仕方ないと覚悟を決めて抱きついているセレンから左手を無理に引き抜いて起きる。
「んん・・・むぅ・・」
一瞬起こしてしまったかと思ったがセレンは抱きついていた俺の左手がなくなるとゴロンと寝がえりを打って俺に背を向ける。ふぅ。これで一安心だな。
隣のベッドのシルフとコールもまだ眠っているようだ。俺は3人を起こさないように気を付けながら壁に立てかけていた仕込み短剣を取り、音を立てないように小屋を出る。
小屋の外に出た俺は素振りをしたりして体を動かして体の一部に溜まった血液を分散させた。
「ギンジさん、おはようございます」
落ち着いた俺が小屋に戻るとシルフが起きていてセレンとコールを起こそうとしていた。
「おはよう。もしかして起こしちゃった?」
「いえ、自分で起きましたよ!起き上がろうか迷っていたらギンジさんが小屋から出ていったので」
「ああ、起きてたのか。ちょっと体を動かそうと思ってね」
「朝から訓練なんてさすがです!」
シルフはそう言ってくれるがこれは邪念を払うためのもので・・・まぁいい。とりあえず2人を起こそうか。
「せっかくギンジと同衾しましたのに!何もありませんでしたわ!」
朝食を摂っている時にセレンがそんなことを言っていたがあれは何も無かったと言って良いのか。俺としては十分セレンの(体の)破壊力を知ってしまったのだが・・・本人にバレてないならいいか。
「お金の価値が低い・・・ですか?」
朝食の後、昨日のアルバートの話も含めてこの街のことを説明する。俺も貨幣や銀行の成り立ちや経済について元々詳しいわけでもないし、この街や世界に関してはほとんどが憶測だ。だから説明としてはかなり曖昧なものになってしまった。
「お金の価値っていうのはお金で物が買えてこそだからな。お金以外の物で支払うなら物を手に入れるのにすごい苦労をするってわけでもないんだよ」
そう言って安い酒に氷を入れてアルバートからは情報をもらったと説明した。
「実際ここも薪割りをして借りてますものね」
「そうだな。労働力や情報なんかも価値のあるものだからな。あとは交渉次第ってことだろう」
「それじゃああたしの氷菓子もお店を出せば儲かったのかな?」
「前みたいに出店を出しても難しいかもしれないな。いくらで売るのかが難しいし、お金以外で交渉されてもコールとしては望むところじゃないだろ?ただコールが欲しいものを手に入れる時に支払いとして氷菓子を利用するのはうまくいくかもしれない」
「なるほどね〜」
「交渉と相手次第だけどな。まぁ俺が説明できるのはこれくらいだな」
「それで、この街がただ物価の高いだけの場所ではないと分かったわけですが、予定通りすぐに次の街に行きますの?」
説明がひと段落したのでセレンが今後の話に切り替える。
「そうだな。正直言うとこの街に興味は出たが節末祭までにまだ時間はあるし、この街で生活費を稼ぐのは手間がかかりそうだから今回は諦めてすぐに出発したいかな」
「手間といいますと?」
「魔道具屋や役場での買取はそれなりにしてもらえるだろうけど欲しいものを手に入れるには何らかしらの交渉が必要だろうし。食糧を手に入れる為にも何かこちらの価値のあるものを相手に見せてってのも面倒そうで」
「それもそうですわね。相手の欲しい継続的な労働力などをこちらが提供できれば問題ないんでしょうが、そう上手くいくかもわかりませんものね」
「そういうことだな。だから今回はこのまま出発して、節末祭の時期に寄れそうな時があれば少し覗いてみよう」
こんな感じで今後の予定が決まった。
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