3-25 街の本質
エルシュヴィレンでとある老夫婦の家の離れを借りることになった俺たちは宿代替わりとして薪割りを4人で行った後、どうせなら一緒にと誘われて老夫婦と共に夕食を頂いた。
「お兄ちゃん達は中々働き者だねぇ。お嬢ちゃん達もあんなに上手に薪を割るんだから。驚いたねぇ」
「そうですねぇ。私も若い頃なら負けないんですが年をとっちゃったからねぇ」
俺たちの薪割りを見ていた老夫婦が夕食の時にそんな風に言ってくれた。
「いえ、こちらも今日は街を出て野営をするかと考えていたので小屋を貸していただき助かります」
「そんなお礼なんていいよ。こっちからしたら空いてる離れを貸してやるだけで薪も割ってもらえるしお金ももらえるしで大助かりだよ」
「ほんとそうですよねぇお爺さん。それに食材もこんなに用意してもらって」
「これは俺たちも食べる分ですので」
あくまで俺たちが老夫婦と契約をしたのは離れを一晩借りることだ。食事は自分たちで用意するつもりだったので一緒に食べるとしても全部お世話になるわけにはいかない。
「そうなんだけどねぇ。お兄ちゃん達はこの街にあんまり向いてないかも知れないねぇ」
「それは感じています。俺たちは多分、'売る'のが下手なので」
「ハッハッハ!分かってるなら構わんよ。若いのに賢いお兄ちゃんだ」
そんな会話もあったが老夫婦が作る料理もおいしかったし、こちらが提供した肉なんかもおいしく頂いて夕食は終わりとなった。
夕食後、俺は衛兵のアルバートに話を聞きに行こうと3人に伝えるとセレンに止められてしまった。
「全員で行くのはいけませんの?」
「そうだな。問題は無いんだけどできれば俺一人で行かせてほしい」
「何か理由がありますの?夕食の時も少し変な会話をされていましたが」
「その辺も衛兵の人と話をしてからかな。まだ俺の考えが正しいか分からないからみんなに話すのは明日にするよ」
「分かりましたわ。でも変なお店に行ってはいけませんわよ!」
「行かないから大丈夫だって」
「新しい女の子を連れてくるのも無しですわよ!?」
「だから大丈夫だって」
「でもあたしみたいなのに捕まるかもよ~?」
「コールは余計なことを言わない!本当にダメですわよ!」
「わかったから。こっちも戸締りだけは気を付けてね」
そう言って俺は借りている離れを出て衛兵の詰め所に向かう。俺たちは早めの夕食だったので街はまだ賑わっている。食事をする人達や異性に声をかける人達も道端にたくさんいる。やはり一人で来て良かったな。あの3人を連れて歩いたら声をかけられてキリがない。
俺は途中の店で酒を1本買った。値段を聞くんじゃなくて先にこちらで予算を言ってこの値段で酒が買えるか?と聞くとこれでいいかい?と小さな酒瓶を渡してくれた。少し割高だが別に自分が飲むわけじゃないしな。
この街は金の街だとコールも言っていたしそう感じるのも分かる。
しかし本質は全く逆だと思う。
この街は金の価値がとにかく低いのだ。金というのは価値を保証して物のやりとりをスムーズにできるように作られたものだ。
だがこの街はその価値がない。極端な話、物々交換が一番強い。相手が欲しい物を提示できるかどうかが全てだ。
金の価値がなく、みんなが金を欲しがっていないから金で買おうとすると完全に言い値になってしまう。
その結果、外から来た金で買い物をする人からすると売っている物は高いし物も人材も良いものには人が集まる。いい女だけでなく屈強な戦士もこの街を歩いていれば声をかけられることは多いだろう。
物も欲しい!と思われる良いものでなくてはならない。だからそこそこの出来の安い量産品みたいな物に需要はないんだろう。そういった安い物や粗悪品はゴミと同じで無価値なもののように扱われている。俺が買ったこの酒も店からすればあっても無くても困らないような品なんだろう。
この街ではどれだけ自分の価値を高く見せて売るかが肝心なんだと思う。
「お、来たな。こっちで話そうか。俺が使ってる部屋がある」
衛兵の詰め所に行ってそこにいた衛兵にアルバートの名前を出すと裏からアルバートを呼んできてくれた。
俺のことを覚えててくれたようでアルバートはそのまま本人がここで寝泊まりしてる部屋に案内してくれる。
部屋にはベッドと本棚、それにテーブルが置いてあってそこには食事が置いてあった。
「ちょうど今さっき仕事が終わってな。今から食事なんだが食べながらでいいか?」
「こちらこそ食事中にすいません。出直しましょうか?」
「俺は構わないよ。それと話し方もそんな丁寧じゃなくていいぜ」
そう言ってアルバートはテーブルについて食事を始める。俺もアルバートの向かいに座らせてもらう。
「それじゃあ遠慮なく。仕事終わりにわざわざ悪いな」
「それも気にしなくていい。それに一人で来たってことはお嬢ちゃん達には聞かれたくない感じか?」
「いや、それより買いたいと思われたくなかったので」
「人の嫁に手を出そうとする奴はそんなにいねぇよ」
「そこまではまだ街のことが分かってないので」
「それもそうか。それでそっちの手に持ってるのは?」
「そうそう、こればっかりは聞いてみないと分かんなかったんですが、アルバートさんは酒は飲みますか?」
「もちろんだ」
「じゃあ何かコップはないですかね。ご馳走しますよ」
「それじゃあちょっと待っててくれ」
そう言ったアルバートは残っていた夕食を掻き込むと食器を持って部屋を出ていったがすぐにコップを2つと酒の肴にするのかチーズや燻製肉の乗った皿を持って戻ってきた。
「待たせたな。ギンジって言ったっけか?お前さんも飲むのか?」
「俺は遠慮しとくよ。それに大した量もないしな」
そう言って俺は持ってきた小さな酒瓶を見せる。
「それもそうか。それで他には何も持ってないようだが、その安酒分だけ話を聞きに来たのか?」
「まぁね。これの価値も知りたかったからちょうどいいかなって思って」
そう言って俺はアルバートのコップを手に取ると中に大きな氷を作った。
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