3-24 宿探し

 夕方、陽が落ちる前にエルシュヴィレンに着いた俺たちは街に入る列に並ぶ。


「このまま街に入っていいのか?この時間だとここで泊まることになりそうだけど、宿代は高いんだっけ?」


 今からだと次の宿場町を目指すには遅い気がする。とりあえず来たことのない街なので来たことのあるコールに尋ねてみる。


「節末祭まではまだ時間があるし1泊くらいなら大丈夫じゃない?あたしも前来た時は教会の世話になったから詳しくはわかんないけど」


 宿もひとつじゃないだろうし安い宿を探すか。あとは馬車の預かりの問題もあるし入ってから考えるしかないか。


「とりあえず街に入って、馬車ごと泊まれる宿で高すぎないところを探そう。どうしても予算の都合が合わなければこのまま街を素通りして次の野営できる場所まで街道を進もうか」

「そうですわね。ここまでは毎日宿でしっかり寝れていますし大丈夫でしょう」


 心配するとしたら馬なんだけど今日は朝もそんなに早く無かったしもう少しくらいなら頑張ってくれそうだ。

 もちろんこのまま街で休めれば一番だからまずは宿を探してみてからだな。


「兄ちゃんはエルシュヴィレンは初めてかい?」


 行列が消化されて俺たちが街に入る時に門番をしている衛兵の人にそう声をかけられる。プレートで前科の確認をされて馬車の荷台の中も軽くチェックされる。


「そうですが、そういうのって分かるもんですか?」

「物売りにも見えないし金を持ってそうにも見えないからな。この嬢ちゃん達は・・・兄弟って感じでも無いが商品ってわけでもないだろう?」

「はい。全部俺の嫁ですね」

「ハハハ!兄ちゃん若いのにこんなキレイな嬢ちゃん3人も嫁にもらったのか!羨ましいねぇ」

「ありがとうございます。ちなみに女の人が商品というのは?」

「おまえ嫁さん達の前でそういうことを聞くんじゃないよ。まぁ一晩相手をするってやつだ」


 連れ歩きの娼婦ってことか。


「でも娼館みたいなところもあるんでしょう?わざわざ連れて歩いて買う相手を探すんですか?」

「う~ん、説明すると長くなるからな。とりあえず今は街に入ってくれ。話が聞きたければ街に入る人が途切れる夜中にでもそこの衛兵の詰め所に来てくれたら話してやるよ」

「確かにここで話し込むのは邪魔になりますね。わかりました。ありがとうございます」

「俺の名前はアルバートだ」

「俺はギンジです」


 お互いに名前を言って握手をする。親切な衛兵さんで良かった。この街に泊まることになったら後で話を聞きにくるのもいいかもしれないけど


「夜中に来ても迷惑じゃないんですか?」


 ここの衛兵の交代制がどうなってるのか分からないが仕事の後に時間を取らせるのも申し訳ないので確認しておく。


「ああ、問題ないぜ。もちろんタダじゃないけどな」


 そうだった。ここは金の街だったな。俺は親切に見えた商売上手の衛兵に会釈をした後、ゆっくりと馬車を進ませた。



「泊まるところは何とかなったわね」


 小さな小屋の中で2つ置いてあるベッドに倒れ込みながらコールがつぶやいた。


「それより誰がギンジと一緒に寝るのか決めないといけませんわ」

「だから俺は床に寝るから気にしなくていいよ。馬車の中でもいいし。普段の野営と変わらないから」

「ですがせっかくベッドがあるのですからベッドで寝た方が良いに決まってますわ!」

「それは人数分ある時の話だよ。とにかくまだ同じベッドで寝るつもりはないから」

「別にいいじゃない。一緒に寝たって何するわけでもないんでしょ?あたし達だって別に何かするわけじゃないんだから。ねぇシルフ?」

「そ、そうですね!私もギンジさんが一緒でもだ、大丈夫です!」

「そうは言ってもなぁ」


 コールは本当にどうでもよさそうだがセレンは何か気合が入っているしシルフは逆に一緒のベッドに入ったら眠れなさそうだ。ここは話を変えるか。


「とにかくこの小屋を借りる条件だった仕事もしないといけないからな」


 そう、何件か宿を回ったが4人で泊まるとなるとそこそこいい値段がした。払えないわけじゃないけど野営も選択肢に入ってるとついもったいなく感じてしまう。どうしたものかと諦めかけていたが最後に行った宿の主人に紹介してもらってこちらの民家の離れを貸してもらえることになった。ベッドは2つだが薪割りを条件に格安で貸してもらえることになった。


「いやぁ子供たちが出ていってからはこういった仕事が中々大変でねぇ。空いてる離れを貸して薪割りしてくるなら助かるよ」


 家を貸してくれた老夫婦はそんな風に言うが、この離れの小屋は埃っぽくもないしsれなりに手入れがされていると感じる。

 多分俺たちみたいなやつも少なくないんだろう。金の街と聞いて買う方ばかり気にしていたがこんな風に労働力を売ることもできるわけだ。問題は金を貰えるだけの対価がこちらにあるかどうかだが。薪割りにそんなに価値があると思えないが需要と供給がかみ合わなければ人を雇うのも難しいだろう。この街には薪割りを適正な値段で請け負ってくれる人がいないんだと思う。


「とにかく世話になる分の仕事はしないといけないし、コールにとっては身体強化の練習にちょうどいいだろう。とりあえず全員で薪割りをしよう」

「はーい」「わかりました」「わかりましたわ」


 と言っても俺も実際にやったことがあるわけじゃないから上手くできるかわからんが何事も経験だ。とにかくやってみてそれから夕食を摂って、ああそうだ、時間が取れたら衛兵のアルバートさんのところに話を聞きに行きたい。ここの老夫婦に色々訪ねてみてもいいが情報は多い方がいいだろう。


 寝るベッドの話はそれからだな。

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