2-19 街のコックさん
夕食といつも通りの一番風呂を頂いた後、泊まらせてもらっている部屋でベッドに寝そべってくつろいでいるとドタドタと廊下を走り回る音がする。きっとセレンだろう。
領主親娘と俺とシルフの5人で夕食を頂いている時もセレンは嬉しそうに魔力共有ができたことを両親に話していた。今もきっと何かあったんだろう。まぁ明日も採集に行くだろうし朝食の時にでも何かあったのか聞いてみよう。そんな風に思っていると足音がこちらに近づいて来てバン!!と扉が開かれた。
「ギンジさんギンジさん!聞いてくださいませ!
「セレンさん、先にちゃんと服を着てください!!ギンジさんこっち見ちゃだめです!!」
部屋の入口にはバスタオルを巻いて胸から足の付け根くらいまでを隠しているセレンと上半身は肌着を着ているが腰にバスタオルを巻いているシルフが立っていた。
「ちゃんと隠れていますし、見えてしまってもギンジさんなら構いませんわ!それよりギンジさん!聞いてくださいませ!
「構います!ギンジさん!見ちゃだめですよ!!」
おお!魔力を流せたのか!?魔道具が使えるならプレートも問題ないだろうし生活する分には困ることはかなり減るだろう。魔道具屋でももともと獣人は魔法が苦手な人が多いと言っていたし魔法が使えなくても魔力が流せるなら魔道具で代用は利くはずだ。
そんなことを考えながらも一応体を壁の方に向けて二人を見ないようにする。シルフの注意関係なく露出の多い女の子をジロジロ見るのはあまり良くないだろう。
「本当か?それは良かった。一気に成長したな!」
俺は背を向けながらセレンに返事をする。
「ギンジさんのおかげですわ!お見せしますので一緒にお風呂に来てほしいですわ!」
「何を言ってるんですか!ああもう布が落ちますよ!」
「大丈夫ですわ!ああ、でも
そんなことはない!見れるならもちろん遠慮なく・・・ではなくて。とりあえずここで押し問答していても仕方ない。
「二人とも落ち着いて。まだお風呂に入ってないんだろう?そんな格好のままじゃ風邪引いちゃうから、まずはお風呂に入っておいで。魔道具を使うところはお風呂じゃなくても見れるから」
俺は壁に向かって話す。
「むぅ。確かにそうですわね。
そう言ってセレンは部屋を出ていった。と言っても俺は壁の方を見ているので扉の閉まる音で判断したんだけど。窓に反射?いや、なんのことだか。
二人が去ったので先ほどのようにまたベッドでくつろぐ。まだ眠くはないが特にすることもないのでこのまま眠ってしまってもいいだろう。と考えているとノックの音がする。セレンが戻ってきたか?
「ギンジ様、当主がお呼びです」
扉を開けるとそこにいたのはカーティラさんの秘書をしてるという・・・なんだっけ、そう、ジャンさんが立っていた。案内について行くといつもの応接間ではなく別のところに行くみたいだ。
「おう、来たか」
案内されたのは厨房だった。調理器具や皿の入った棚、調理台かな?作業するスペースなどがある。さすが領主邸、厨房もなかなかの広さだった。
厨房にはカーティラさんと半獣人の獣耳が生えたおじさんがいる。エプロンのような前掛けをしているのでコックさんかもしれない。エプロンのおじさんは俺を一瞥した後、カーティラさんに話しかける。
「この小僧がさっき話してたやつか?」
「ああ、さっき言った通り詮索と他言無用で頼む」
「それは構わないが、見た目は普通の若者って感じだけどねぇ」
「見た目で中身がわかるなら料理の味見も必要ねぇんだがな」
「そりゃちげぇねぇな」
ハハハ!と二人で笑っている。俺は何しにここへ?
「ギンジよく聞け、こいつは街の食堂をやってるスタンだ」
「はぁ、ギンジです。よろしくお願いします」
よく分からないけど紹介されたのでこちらも名乗って挨拶する。
「スタンとは若いころから付き合いでな、まぁ口は堅いから安心しろ」
さっきから何の話をしているのかよくわからないんだけど。
「じゃあギンジっつったな?手ぇ出しな」
そう言ってスタンさんが俺の前に来て右手を出す。手のひらを上に向けているし握手じゃないよね?
「えっと、僕はどうすればいいんですか?」
「おいカート!こいつ本当に才能あんのか?なんも分かってないぞ?」
カーティラさんはカートって愛称なのか。
「ギンジ、魔力共有だ。今からスタンがお前に火の魔法を教えてくれる」
「ほんとですか!?」
なんと!まさかこんな風に魔力共有する人を紹介してくれるとは思わなかった。
「教えるってなんだ。俺は魔力共有してちょっと魔法を使うだけだぜ」
「こいつはそれで十分なんだよ。な?ギンジ」
「はい。1回、いやできたら2回ほど使っていただけたら」
さっきから他言無用とか口が堅いとか何のことかと思っていたが俺の魔法の覚え方のことか。信頼できて魔力共有してくれる人を探すのは難しそうだったのでこういう形でセッティングしてくれるのは非常に助かる。
「それではよろしくお願いします!」
やっと意図が分かったので俺はスタンさんの手に自分の手を重ねて魔力共有をする。
「まぁ1回や2回なら構わねぇけどよ。それじゃあ行くぜ。'燃えろ'」
スタンさんがそう言って魔力を込めるとスタンさんの左手からボゥ!っと火が出る。俺は共有した魔力を感じながらスタンさんの魔力の流れをしっかりと目で見る。
そのまま何度か繰り返して火を出すとスタンさんは俺と繋いでいる手を離した。
「こんなもんでいいか?」
「はい。ありがとうございます」
そう言って俺は深くお辞儀をした。
「こんだけで魔法が使えるなら世話はねぇけどな」
「それはそうなんだが本人がこれだけで十分って言ってたからな。ギンジ、見せてもらえるか?」
「わかりました」
多分いけるはず。事情が分かっている二人に隠す意味もないので俺はその場で右手に魔力を込めて手のひらの上にボゥ!と火を出す。
「こりゃたまげた。元々使えたのに俺を騙すためにやってるわけじゃないんだろう?」
「お前を騙して何の意味がある。俺だって自分で見たのは初めてだから驚いてるよ」
二人とも耳と尻尾がピーンっとなっている。大人でも感情は出ちゃうんだなぁ。
「スタンさん、ありがとうございました」
「いや、俺は大したことしてねぇよ。こんくらいなら仲良くなったら誰でもやってくれるだろうから兄ちゃんは魔法の使える友達をたくさん作るこったな」
そう言ってスタンさんは俺の頭をクシャクシャとなでた。
「カーティラさんもありがとうございました」
「なぁに、俺は自分の娘のためよ。これでセレンにも教えれるんだろう?」
なるほど。そう言われるとその通りだ。シルフにも教えないといけないしもちろんこのままならセレンにも教えることになるだろう。
「そう言えばそうでしたね。少し自分の中で整理したらセレンさんにも教えると思います」
「なんだ?お前の娘は魔法はからっきしだったんじゃないのか?」
「これもまだ他言無用で頼む。このギンジがセレンの魔法教師をしてくれててな、ちょっとなんとかなりそうなんだよ」
「こりゃまた驚いた。兄ちゃんは見かけによらずすげぇヤツだったんだなぁ」
そう言ってまた俺の頭を撫でた。俺は二人に何度もお礼を言って、部屋に戻った。二人は今から酒盛りだそうだ。昔馴染みと言っていたし、本当に仲が良いんだろう。
部屋で火を出すのはまずいかもしれないのでとりあえず今日のところは魔法の練習はやめておいて眠りについた。
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