2-16 ライオンさん
「誰かと思ったら領主様のとこのセレンお嬢様じゃねぇか!」
採集が終わった後、今週末に迫った節末祭に向けて少し賑やかになった街を歩いていると突然声をかけられる。声の方を見ると5人くらいの獣人の人達がいてニヤニヤしながらこちらを見ている。おお!ライオンさんだ!その中の先頭にいる立派な
「こ、これはノイルさん、お久しぶりです。お変わりないようで」
一方的にセレンが知られてるわけではなくて知り合いのようだ。ただセレンは声がいつもより小さいし尻尾が下がって不安そうにしている。
「服装がいつもの高そうなやつじゃなくて分からなかったぜ。普段はお屋敷に引きこもってるのに街を歩いてるなんて珍しいじゃねぇか。それに・・・ついに耳無しとつるむようになったのか」
「このお二人は関係ありません!
「おお、怖い怖い。許さないと何されちゃうのかねぇ。お父様に泣きついちゃうのかな?」
「ちげぇねぇ」
そういって獣人の集団が笑っている。なるほど、なんとなくこいつらがどういうやつらなのかは分かった。日本の格闘技の世界でもちょくちょく見かけたもんだ。ちょっと腕が立つとイキるやつ。こいつらもそれなりに腕は立つのだろう。獣人の年齢は外見からだとわからないけど、領主の娘にこの態度と言動を考えるとあんまり大人って感じはしないな。セレンと同じ歳か少し上とかだろうか。
ちなみに後で聞いたんだが耳無しというのは只人を揶揄する言葉らしい。耳が横についていて頭に獣耳が無いからだそうだ。耳が上にあると偉いのか?わからん。でも女の子の獣耳は可愛いから偉いのかもしれないな。うん。
「セレンさん、お知り合いの方ですか?」
俺が何か言われるのは構わないがこのままだとセレンが辛そうだと思い会話に入る。
「ギンジさん、こちらの方はノイルさんとおっしゃいまして、先ほどお話しした武闘祭で活躍されている方ですわ」
急に俺が話し始めたので少し驚いたようだったが、きちんと紹介をしてくれる。それにしても武闘祭で活躍ってことは次の領主候補ってことか?この人格で?いや、カーティラさんも昔はこんな感じだったのかもしれないし、そうじゃなくてもリアンクルの領主はこっちが普通でカーティラさんが特別なのかもしれない。
「初めまして、ノイルさん。隣の街から来ましたギンジと申します」
そう言って俺は気持ち深めにお辞儀をした。こういう奴には
「おう、中々わかってるじゃねぇか。耳無しには少し肩身が狭い街かもしれねぇがまぁゆっくりしていってくれや」
「そんな!リアンクルは獣人でない方でも」
「まぁまぁまぁ、セレンさん落ち着いてください」
ライオンさんの言葉にセレンが反応してしまうのでなんとか止める。
「僕が獣人じゃないこともこの街が獣人の人が多い街であることも事実ですから」
「そうかもしれませんがこの街は決して獣人以外を差別するような街ではありません」
「それも分かってるから大丈夫ですよ。それにノイルさんは武闘祭で活躍されてるんでしょう?それなら仕方ありませんよ」
「兄ちゃん中々分かってるじゃねぇか!」
俺の
「兄ちゃんもその剣は飾りじゃないんだろう?武闘祭に出てみたらどうだ?兄ちゃん相手なら手加減してやるぜ?」
「いえいえ僕なんて。みなさんに比べたらこんな剣なんて飾りみたいなもんですよ」
「身の程を知ってるやつは俺は嫌いじゃないぜ!ハッハッハ!」
そう言って俺の肩を叩きながら笑う。本当に簡単なやつだ。
「兄ちゃん、ぜひ武闘祭を見に来てくれ。強い男ってのを見せてやるぜ。じゃあな」
そう言って踵を返して仲間の方に戻ろうとする。
「いえ、見に行くことも無いと思います」
「ああ?なんだビビっちまったか?強い男を見ないと強くなれないぜ?」
俺が断りを入れると振り返って聞いてくる。
「武闘祭と聞いて僕も楽しみだったんですが、口喧嘩を見ても楽しくなさそうなので」
「なんだって?」
「あれ?武闘祭って口喧嘩するんじゃないんですか?さっきからその強さを見せて頂いてるのだと思っていたのですが」
「兄ちゃん舐めてんのか?」
怒ったライオンさんがこちらに戻って来る。連れの方たちもお怒りみたいだけどみなさんもう少し感情を隠す技を身に着けた方がいいですよ。
俺の目の前に来たノイルはガッと俺の胸倉を掴む。
「あんまり舐めたこと言ってると今すぐぶっ飛ばすぞ」
「こんな街中で無抵抗の只人に暴力を振るうとまずいんじゃないですか?領主の娘さんと使用人の人が見てますよ」
俺がそう言うと少し冷静になったのか「チッ」っと舌打ちした後、俺を地面に投げ捨てる。ライオンの顔を間近で見たのは初めてだ。やっぱり迫力あるね。
俺を投げ捨てた後は仲間のもとに戻ってそのままどこかへ行ってしまった。俺は立ち上がってお尻をパンパンと叩くと横にいたシルフが心配そうにしている。
「ギンジさん、怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。シルフも大丈夫?怖くなかった?」
「最後は少し怖かったですがギンジさんもあんな挑発するようなこと言って危ないですよ!」
まぁ向こうから手を出して来たら反撃しやすいしね。言われっぱなしってのもいい気分じゃないし。
「ギンジ様、とりあえずお屋敷の方に戻りましょう。お嬢様もよろしいですね?」
チルさんが声をかけてくれて俺もセレンも頷く。セレンは先ほどから黙ったままだし、チルさんも道中はずっと無言だった。やっぱりああいうのは良くなかったかな?
そう思っていたが領主邸に戻って家に入るとセレンとチルさんが急に笑い出した。
「アーハッハッハ!はぁ、面白かったですわ。チル見ました?あのノイルの顔」
「お嬢様、そんな大きな声で笑ってはいけませんよ。それにしても口喧嘩って。フフフ・・・ギンジ様は上手いことを言いますね」
「最後も手を出せなくて悔しそうな顔をしてましたわ。フフッ、思いだすだけでおかしですわ」
二人は気に入ってくれたようだ。シルフは二人が笑っているのがよく分からないようであたふたしている。
「ギンジさん、少し危ないところもありましたがすっきりいたしましたわ」
「ギンジ様、お嬢様の為にありがとうございます」
「いえいえ、俺もライオンさんには少しムカついたので」
玄関で騒いでいるのもあれなので話が落ち着いたところで食堂に移動する。セレンとチルさんの二人は時々思いだしたようにクスクスと笑っている。
「どうした?なんだかいつもより楽しそうじゃないか」
昼食を頂きながら先ほどの話をしてセレンが笑っていると食堂にやってきたカーティラさんが訪ねるとセレンとチルさんが先ほどのやりとりをカーティラさんに説明している。
「ガーハッハッハ!ギンジやるじゃねぇか。それにしてもあのノイルを前にそんな口を聞けるなんてやっぱり肝が据わったやつだな」
カーティラさんもお気に召したようで大きな口を開けて笑っている。
「まぁこの街で初めに声かけてきたのは虎の人でしたから」
「ちげぇねぇな!」
そう言ってまたカーティラさんは笑う。
「それで、武闘祭は出るのか?」
一通り笑ったあとカーティラさんが俺に尋ねる。
「あのライオンが一番強いんですか?」
「最近は敵なしって感じだな。一応挑むやつはいるが最後まで勝ってるのはノイルだ」
「じゃあ出てみてもいいかもしれませんね」
「勝てそうか?」
「勝てないなら戦いませんよ。見てから考えます」
横に座るシルフが止めようとしてるが今回ばかりはこのままで終わりたくないな。ああいうやつは一回ぶちのめさないと。
そんなことを考えながら魔法の講習のためセレンの部屋に向かった。
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