2-15 ぶとうさい
「すごいですわ!シルフさんは剣も使えますのね!」
今日も採集に同行したセレンはシルフの腰に下げた剣が気になったようなので魔物を狩るところをシルフが見せると凄い凄い!と大はしゃぎした。シルフは照れながらもまんざらじゃなさそうで少し嬉しそうだ。
昨日の疲れが残ってないか不安だったがセレンは朝から元気だった。なんならいつもより目覚めが良かったと言っている。本当かどうかわからないが顔色も悪くないので心配は不要かもしれない。体調に変化があったらすぐ報告するように約束させて、今日も採集に一緒に来ることになった。
「剣もギンジさんが手ほどきをなされたんですの?」
シルフの魔物討伐を見たセレンがこちらを向いて質問してくる。
「俺も剣が得意なわけじゃないから基本的なことだけね」
「そういえばギンジさんも剣は持っていますが魔物はその棒で倒しますわね。こういう武器ってよく使われるんですの?」
セレンが質問をしながらチルさんの方に目線を送ると
「いえ、魔物と戦うのでしたら基本的に刃が付いたものでないと難しいと思います。訓練などで槍の代わりに使うことはあると思いますが。ギンジ様は魔物を無力化するのが非常に早く無駄がありませんのでぜひ私もご教授いただきたいくらいです」
「いやいやいや、褒めすぎですよ。魔物に近づきたくないから剣より長いものを選んだだけで」
「そういうものなんですわね」
「それなら槍でもよかったのではありませんか?」
セレンが納得しかけたのにチルさんが追い打ちをかけてくる。
「魔物以外と戦うことも想定してます」
「魔物以外ですの?それではギンジさんは武闘祭に出られるのかしら?」
「ぶとうさい?というのはなんですか?」
舞踏?踊るのか?いや武闘か。そういう行事があるんだろうか?
「お嬢様、ギンジ様がおっしゃってるのは急に街で襲われたり喧嘩に巻き込まれたりしたときのことかと思います」
さすがチルさんには分かって貰えたようだ。
「ギンジ様、武闘祭というのはリアンクルの節末祭の時に行われる催しでして、街の力自慢がいかに自分が武に優れているかを競い合います」
「お父様も領主になる前は大活躍だったそうですわ!」
「正確には武闘祭で武を示したからこそ領主になれた、ということですね」
力が全てというわけではないだろうがやはりこの街では強さが大事で強くなければ人はついてこないんだろう。
「その武闘祭というのは殺し合いをするんですか?」
「いえ、刃物は禁止されております。剣や槍を使うのであれば刃を潰したものになります。また魔法は身体強化と治癒以外は禁止で、毒物などの薬物も禁止でございます。噛みついたり爪で引っかいたりするのもダメです」
それだと危険なのは頭部への打撲くらいか。話を聞いているとシルフが横目でこちらをじっと見てくる。睨んでる?
「おもしろそうですね」
「ギンジさん!!」
俺が素直な感想を伝えるとシルフが声を上げる。分かってるから。という意思表示で手でシルフを制す。
「もちろん見る分にはだけど。俺は基本的に戦ったりするのは好きじゃないんで、その武闘祭に参加することは無いと思います」
「そうですの。まぁ
「セレンさん!危ないことは良くないです」
危ないかどうかは分からないが無駄な争いというのは俺も好きじゃないからな。
「シルフさん、武闘祭は降参もありますし治癒師の方もいらっしゃいますわ。森に狩りに来るよりは危険はないと思います」
「そう・・・かもしれないけど」
「まぁお決めになるのはギンジさんですわ。ギンジさんが乗り気じゃないのでしたら参加せずに見物客として楽しむのも良いと思いますわ」
「そうそう、出ないからシルフもあんまり心配しないで。俺は強さを示すより狩りをしてお金を稼ぐ方がいいよ」
「あら、賞金が出ますわよ。ねぇチル?」
「はい。一応参加費が必要ではありますが」
「えっ!?賞金あるの!?」
いくらくらいもらえるんだろう。金額を聞いたが少なくないけどそんなに多くなかった。どれくらい戦ったら貰えるのかわからないけどそこまで魅力的じゃないな。
「それならやっぱり参加はしなさそうですね」
俺がそう言うとシルフは安心したようで「はああああ~」と息を吐いた。ちょっと過保護だけどいつも心配してくれてありがとうね。保護者は俺なんだけどね。
話はそれくらいにしてシルフとセレンの二人は採集に戻り、俺とチルさんは警戒に戻る。
先ほどシルフが狩りをした流れでセレンが試しに剣を振っているが剣の重さに振り回されてまともに振れていない。セレンは気の流れもあまり良くないからな。シルフは剣を使う時は身体強化の魔法を使っているし。
領主夫婦やチルさんもだけどこの街の獣人・半獣人の人達は気の流れが良い人が多かった。やはり魔力が苦手な分、体を動かす方に長けているんだろう。
セレンももしかしたらちゃんとトレーニングすれば気の流れを上手く操れたりするんじゃないかな。魔法だけじゃなくてそっちも何か手を出してみるか。俺も魔力とちがって気の流れを操る方が慣れている。
二人の鞄がいっぱいになったので採集から切り上げて魔道具屋へ向かう。今日も別々に査定をしてもらい買い取りしてもらっている。早くプレートくらい使えるようにしてあげたいな。
領主邸に戻って昼食を頂いた後、セレンの部屋で魔法講習をする。といっても今はセレンの体に魔力を流していくだけだが。
昨日と同じように机を挟んでセレンと向かい合い両手を繋ぐ。今日は昨日と違いいきなり強めに流していく。
「どうかな?気持ち悪さとかはない?」
「いえ、どちらかというと気持ちいいと言いますか・・・ギンジ先生から伝わる何かが暖かくて落ち着きますわ」
実際セレンの気持ちを表しているのか尻尾がゆらゆらと揺れていた。いい傾向?なのかな。リラックスはできていそうだ。俺も昨日よりスムーズに魔法を流せているきがする。ある程度流した後、魔法を流す向きを逆にする。
「あっ・・・」
魔力の流れを変えたのが分かったのかセレンが声を上げて俺の左手を見る。尻尾も一瞬ぴくっとしたあとまたさっきのようにゆらゆらと揺れる。
「ちゃんと流れを感じてるようだね」
「いきなりでびっくりしましたわ。でもこれが魔力の流れなんですわね。昨日よりも少し分かる気がしますわ」
いい感じだな。こんな感じで何度か流れの向きを変えた後、今日の魔法講習は終わりにする。
「明日からは手と足の間に魔法を流していこうと思うんだけど、足に触っても大丈夫かな?」
「足ですか!?その、ギンジ先生は嫌ではありませんか・・・?」
「別に大丈夫だけど」
「そうですか。わかりました!ですがその時は先に足を洗わせて頂いてもよろしいですか?」
「そこまでしなくてもいいけど」
「
そう言ってセレンはそっぽを向いてしまった。怒ってはなさそうだが・・・まぁ問題なさそうなので「じゃあ今日はこのあたりで」と言って部屋を出る。
「ギンジ様、お嬢様もうら若き乙女でございますので。ご配慮いただければと思います」
部屋を出るときにチルさんにそう言われてしまった。
俺はデリカシーが無かったみたいだ。
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