2-9 セレンの事情
「ギンジさん、これで少し話しやすくなったかしら?」
「お気遣いありがとうございます」
いや、あなた達にも話したくなかったんですがね。はい。
「ギンジ、シルフに魔法を教えたのはお前なのか?」
カーティラさんが真剣な顔で聞いてくる。もう誤魔化しても仕方ないんだろうな。とりあえず正直に話してその後のことは後で考えよう。
「はい。僕が教えました」
「お前は誰に教わったんだ?」
「その前に一つお願いがあるんですが」
「なんだ?報酬のことか?」
「いえ、それではなくて。この後の会話は内密にして欲しいんです」
「それは構わないが内密にして欲しいようなことを話すのにこんな口約束でいいのか?」
「まぁ信頼するしかないですね。ダメだった時は自分の見る目が無かったんだと反省して今後は気を付けます」
「あなた、本題が進まないので下らないやり取りは止めてください。ギンジさん、あなたの信頼に応えられるよう必ず主人には約束を守らせます。もちろん私も誰にも話しません」
「悪かったよ。もちろん約束は守る」
「わかりました」
サリーさんがお茶のおかわりを入れてくれた。カーティラさんはお茶を一口飲むと話し始めた。
「それでギンジは誰に魔法を教わったんだ?」
「魔力共有をしてもらったことはありますが自分で使えるようになりました」
「それは小さい時に習得したってことか?」
「いえ、魔法を使えるようになったのは最近です」
「最近使えるようになって、すぐに他人に魔法を教えたのか?」
「そうなりますね。シルフは元々全く使えないわけではなくて身体強化や治癒は少し使えたのでゼロから教えた訳ではないですが」
「ギンジは何の魔法が使えるんだ?」
「水の魔法だけですね」
「他の魔法は使えるようにならなかったのか?」
「水の魔法しか魔力共有してくれる人がいなかったので」
「魔力共有があれば他の魔法も使えるようになるのか?」
「できると思います」
「こいつぁたまげた。すげぇ魔法の才能だな」
カーティラさんは太ももをパン!と叩くとお茶をまた飲む。
「それで、教える方はどうだ?セレンも魔法を使えるようにできそうか?」
「多分できると思います」
「それじゃあ頼めるか!?」
「こういうのって問題になったりしませんか?」
「問題?何のだ?」
「公認の魔法教師がダメだったのに僕みたいな若造が魔法を教えられたらマズくないですかね?」
「でもそのための'内密'だろ?」
「それはそうなんですが・・・」
「まぁその辺は上手くやろう。セレンが魔法を使えるようになってもギンジ達のことは表に出さないし、もちろんセレンが魔法を使えるようにならなくても構わない。やるだけやってみてくれないか?」
「セレンさんが魔法を覚えたがっている理由を聞いてもいいですか?」
「そりゃ使えた方がいいだろう?」
「それはそうですが、獣人は使えない人も珍しくないみたいですし、そこまで執着する理由があるのかなと」
「無いわけじゃないが理由が重要か?」
「はい。僕にとっては大事なんです」
そう言って俺はシルフに魔法を教えた経緯を話した。教会暮らしで教会を出た後の将来に希望が無かったこと、そんなシルフの為に魔法と剣を教えたこと、同じような境遇の人を助けれたらと思って街を出たこと。魔法を教えることでお金を稼ぐ気はないので誰でも彼でも教える気はないこと。
「もしかしてここの教会に顔出してたのもそういう子がいたら魔法を教えるつもりだったのか?」
「はい。ただここの教会の子は衛兵か戦士になって食べていけそうだったので、そっちの方で力になれたらと思って稽古をつけてあげようかなって思ってます」
カーティラさんは残ったお茶を飲みほして ガン! と机にカップを置いた。
「ギンジ、お前は本当にできた人間だ。すげぇやつだ。なぁサリー!」
「はい。とても立派だと思います。お若いのに」
カーティラさんは熱くなってるしサリーさんはハンカチを目元に当てている。
「じゃあセレンのこともちゃんと話そう。実はな」
そう言ってセレンさんのことを話してくれた。
サリーさんは両親が獣人と只人のハーフなのでセレンさんは獣人3:只人1のクウォーターになるそうだ。半獣人は基本的に獣人の特徴が強く出て獣人のように身体能力は高いが魔法は苦手、という人がほとんどらしい(サリーさんも戦闘はめちゃくちゃ強いらしい)
ただセレンさんは生まれつき身体能力が非常に低く戦ったりするのはダメで、それならと思って習得しようとした魔法もダメだった。ということらしい。
この国は領主とはいうが世襲制ではないのでカーティラさんが引退する時には街の人達で新しい領主を選ぶ、という形を取るのでセレンさんも将来は一人で生きていく力が必要だそうだ。もちろん先代の領主の子供や親族が次の領主に就くこともあるが獣人として強くないと街の人には認められない。なのでセレンさんは次の領主になるのは難しく、将来は一人で生きていくか結婚するしかないが、結婚でも問題になってくるのが強さだそうだ。獣人は女の人も強い人がいいとされている。マジで脳筋じゃないか・・・いや、なんでもないです。
そう言ったわけでセレンさんは魔法を使えるようになってなんとか一人立ちする力を付けようとしている。そう話してくれた。
「こういうわけだが、なんとかしてくれないか?」
一通り事情を話してくれたカーティラさんが俺に頭を下げる。サリーさんも「お願いします」と頭を下げた。
「魔法を使えるようになればセレンさんの将来は安泰なんですか?」
力になりたいと思ったが重要なのはここだ。
「そればっかりはわからん!」
「えっ!?」
「未来のことはわからん。ただ今よりも可能性は広がるだろう。例えば治癒魔法が使えるようになれば診療所では働けるだろう。この街の診療所は人手不足だからな」
「なるほど。たしかにそうですね」
「それじゃあ受けてくれるか?」
「成功するかはわかりませんが、頑張ってみます」
「「ありがとう(ございます)」」
カーティラさんとサリーさんが声をそろえてお礼を言う。
こうして俺はリアンクルで魔法教師をすることになった。
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